
ゲルハルト・オルディゲス 2008年製が入荷しました。
〔楽器情報〕
ゲルハルト・オルディゲス 2008年製作 ハウザー1世モデル‘La Honra’Usedです。
ボディ内部のネック付け根には<GJO 06-2008 MADE AT THE REQUEST OF JULIAN BREAM>と刻印があり、ジュリアン・ブリームから直接依頼を受けて製作したものであることが記されています。この稀代の名手にして類まれな楽器の目利き(あるいはプロデュース能力の持ち主と言っても良いかもしれません)からのオファーはやはり作り手としての冥利に尽きる思いだったのでしょう。もともとオルディゲスは製作した全てのギターに名前を付けていますが、本作には‘La Honra’(The Honor「名誉」の意)と名づけ、最大限の敬意を表しています。
基となるのはヘルマン・ハウザー1世作の「セゴビアモデル」。ボディサイズ、ヘッドシェイプやロゼッタ等の外観、内部構造の設計もほぼこれに準じています。ただし扇状力木やクロージングバーのサイズは例えば有名な1937年製セゴビアモデルに代表される設定の2倍以上となっており、またボディレゾナンスの位置もF~F#とハウザーとしては低く設定されています。構造的な細部についての具体的な指示がブリームからあったかどうかは定かではないもの、レゾナンスを低く設定し低音部にたっぷりとした厚みを持たせることはブリーム自身が厳密に指定したに違いなく、自身が所有していた1940年製ハウザー1世(懇意にしていたRose Augustine から購入したもので、後年再びAugusineに戻すことになる、1世作ギターの中でも伝説的な個体の一つ)を理想の音響サンプルとしていたことが伝えられています。同じくブリーム本人から製作の依頼を受けたことのあるイギリスの製作家ゲイリー・サウスウェルによれば、ブリーム自身はギターに対してチェロのように太く「人間の声」のような音を求めていて、その1940年製ハウザーは F#のレゾナンス設定がされており、まさしく深くたっぷりとした低音が特徴的な楽器であったそう。
自身のキャリアの中でもとりわけ多くの優れたハウザーモデルを製作してきたオルディゲスですが、20世紀を代表する巨匠のオファーにインスパイアされたのか、本作はその中でも出色の一本となっています。撥弦の身体性(爪弾きの感覚と言ってもよいでしょう)を保ったまま最高度の洗練された音像を生み出す、ハウザーならではの稀有な発音機能が十全に備わっており、音楽だけのために生み出されるような音がまずは素晴らしい。そして鍵盤のように整った全体の音響バランスが構築されているのですが、全ての音どうしが有機的に繋がり、旋律における充実した線、点から点への跳躍や下降の力学、音と音との遠近を、音楽的な自在さのなかに形成してゆきます。この透徹なまでの音響機能をベースとしながら、しっかりと「歌う」楽器であることも特筆すべき点でしょう。そこにはオルディゲス氏自身の性質によるものか全体にほのかに柔和さが加味されており、クラシカルな厳格さと優しさが無理なく同居しています。
割れや改造などの大きな修理履歴はなく全体の良好な状態を維持しています。糸巻はオリジナル出荷時にはSloane製を装着していましたが現在はイタリアの高級ブランドAlessi 製を装着しています。表面板の指板脇やボトム付近などにスクラッチ傷が少々あります。横裏板は衣服等による摩擦あと(特に演奏時に胸が当たる部分など)や塗装の擦れや軽いムラなどが見られますが外観を損ねるレベルでは全くなく、軽微なものに留まっています。ネック裏には細かな爪キズありますがこちらもほとんど見た目にもグリップの感触的にも気にならないレベル。ヘッド裏側はおそらく弦交換時や調弦の際についてしまったと思われる細かなキズが多くあります。ネック、フレットなどの演奏性に関わる部分は良好です。ネック形状はほとんどCに近いほどにラウンド加工された薄いDシェイプでコンパクトなグリップ感。弦高値は2.5/3.8mm(1弦/6弦 12フレット、サドル余剰2.5~3.5mm)。ネックとヘッドはVジョイント方式。
本器は完成後にジュリアン・ブリームが所有し、後に本人からイギリスのギターショップ Kent Guitars(現在は閉店)を通じて売却されたもの。