
パコ・サンチャゴ・マリン 2007年製が入荷しました。
〔製作家情報〕
パコ・サンチャゴ・マリン Francisco(Paco)Santiago Marin 1946年スぺイン、グラナダ生まれ。家具職人であった父親のFrancisco Santiago Olivaのもとで12歳から修業を始め、並行して1963年からは叔父のアントニオ・マリン・モンテロの工房でギター製作技術を学びます。父親のもとでは家具職人としての仕事にのみ従事していましたが、これを機にギター職人として身を立てることを決意し,10年もの歳月を修行と研究に費やし1973年に独立、同地グラナダに工房を構え、現在は息子のルイス・サンチャゴ・エルナンデス(1969~)と一緒に製作しています。外観的、音響的にもアントニオ・マリンの影響を色濃く受けていますが、自身がもっとも規範とするところはアントニオ・デ・トーレスのギターであり、グラナダ伝統のギターであるとのこと。生々しい木質のヴィヴィッドな響きと豊かな音量はいかにもグラナダスクール的ですが、色彩を抑えた音色は渋く、どこか翳を含んだ表情はヨーロッパ的とも言え、これがこのブランドの特徴ともなっています。
1985年グラナダ、1993年のハエン、1995年のバルセロナの3つの国際ギター製作コンクールで第1位となっており、国際的な評価も非常に高い。多くのギタリストにも愛用されており、レオ・ブローウェル、デビッド・ラッセル、マリア・エステル・グスマン、コンラド・ラゴスニックらのベテランに加え、リカルド・ガレン、ホセ・アントニオ・エスコバール等の表現力豊かな俊秀たちが彼の楽器を使用しているのは注目に値します。
〔楽器情報〕
パコ・サンチャゴ・マリン 2007年製のオリジナルモデル No.C.246 Used です。
このブランドのフラッグシップモデルであり、アントニオ・マリン・モンテロのブーシェモデルと並んで現在のグラナダを象徴するギターとして非常に人気のあるモデルです。外観や音質的な特徴などやはり叔父アントニオとの共通する部分はあるものの、グラナダ的要素を洗練、純化したような彼独特の音楽的表出力の強度と美しく渋い佇まいは、現在のスペインのなかでもとりわけ際立った魅力を放っていると言えるでしょう。
さらっとした心地よい質感の音像、両手と完全に一致するような発音、スペインギターならではの音響バランスをしっかりと構築し、たっぷりと空間性がありながらも明晰なそして高く抜けてゆくような響きといった、いかにもグラナダらしい音響特性が最高度に達成されています。そして音は楽音としてのニュアンスと表情を豊かに湛えつつも、決して「甘さ」を捏造することなく、最後のところで木そのものに語らせるようなストイックな響きがなんとも素晴らしい。理論に包摂せずギターという楽器の純粋性をぎりぎりのところで意図的に保持する(あるいは放置する、と言っても良いのですが)、このパコ・サンチャゴならではの着地は本当に見事。つまり弾き手の身体性(指先のタッチ)に寄り添うようして人間の声にも比するような「歌としての音」を作り上げてしまったのがスペインギターだとして、彼はここであくまでも木自身が発する声として鳴らしており、この身体性と物質性とのあわいに音楽が生まれてくるような感覚は、まさしくクラシック音楽にふさわしい。そして全体はいかにも堂々と、そしてスマートな佇まいの中に落ち着いている、彼の数多い同モデルの中でも出色と言える素晴らしい個体となっています。
表面板内部の力木構造は、サウンドホール上側(ネック側)に大小1本ずつのハーモニックバー、下側(ブリッジ側)にも1本のハーモニックバー、サウンドホール周りはロゼッタの範囲をカバーするように補強板が貼られ、ホールの両側(高音側と低音側)の縁からそれぞれ近接する横板に向かって1本ずつの短い力木を設置、扇状力木は左右対称7本を設置し、駒板サドルの位置には薄い補強板が7本の力木の範囲に渡って貼られています。7本の扇状力木のうち一番両外側の合わせて2本は中央の5本と比べて半分ほどの長さとなっています。ちょうどサドルの位置にそれに沿って貼られた補強板は通常駒板の形と面積にほぼ合わせることが殆どなのですが、ここでのパコ・マリンの設計は短辺が駒板の半分の細く薄いもので、これはアントニオ・マリンのブーシェモデルにおける同じくサドル位置に設置されたトランスヴァースバーのヴァリエーションとみることもできます。レゾナンスはGの少し下に設定されています。
全体は出荷時のままのオリジナルセラック塗装を維持しており、およそ20年近くを経たギターとしては良好な状態を維持しているといえます。表面板の指板両脇からサウンドホール周りにかけてや駒板下部分などやや集中して演奏キズや掻きキズが見られるもののさほどに目立たず、外観を損ねるものではありません。横裏板も部分的に軽微な摩擦のあとがあるだけで、セラック塗装の艶やかさとともにとてもきれいな状態。ネック裏は演奏時の爪キズはありますがこちらも軽微なもので外観とグリップ感の双方で問題のないレベルです。ネック、フレット、糸巻等の演奏性に関わる部分の状態も良好です、ネック形状は薄くフラットなDシェイプでコンパクトなグリップ感、640mmのスケールと相乗して演奏時の左手のストレスが軽減されています。弦高値は2.6/3.7mm(1弦/6弦 12フレット、サドル余剰1.0~1.5mm)とこちらもやや低めの弾き易い設定になっています。ボディ全体の重量は1.54kg。