
アーロン・グリーン Concert 2005年製が入荷しました。
[製作家情報]
アーロン・グリーン Aaron Green 1973年(1974年?)アメリカ、マサチューセッツ州生まれ、現在も同州のグロトンに工房を構える製作家です。16歳の時に地元のあるフォークフェスティヴァルで製作家のアラン・カルース Alan Carruth と出会い、弟子入りを志願。カルースは当時斯界きっての理論派でありギターにおけるアメリカの音響学派の第一人者とされていましたが、アーロンはなによりも彼の楽器製作に対する深い献身に心打たれたようです。当初アコースティックやエレキギター製作の道を漠然と考えていた彼は、やがて自身の嗜好はクラシックとフラメンコだと認識するに至りますが(そのきっかけの一つとなったのがあるギタリストの演奏したバッハだったそう)、カルースのもとでの修行を終えて独立した後の1995年、ギタリストのデニス・コスター Dennis Koster と出会ったことでこの方向性を確信し、一気に探求を深めてゆくことになります。アーロンによればコスターは伝統的なスパニッシュギターに関する非常な知識と見識を有した碩学であり、優秀なギタリストたちとの関係を繋いでくれる友人であり、なによりもクラシックギターというジャンル総体における素晴らしいメンター的存在であったそう。コスターの紹介でスパニッシュギターの数々の銘器を実地に研究する機会を得ると同時に、自らもクラシックギターの演奏を学ぶことで、楽器のプレイヤビリティと音楽表現についての経験値を高めてゆきます。
こうしてスパニッシュギターの伝統にどっぷりとのめり込みながら、そこにカルースから学んだ音響工学的な理論的アプローチ、弾き手の観点からの演奏性の追求、そして類まれな木工技術による精密極まりない造作とが合わさり、最も美しい伝統を継承するその最新の形に相応しいギターを作り上げることになります。
現在彼のモデルラインナップはクラシックとフラメンコで、ほとんどは伝統的な工法で作られています。それらのギターは彼が革新的構造を生み出すことへの十分過ぎるほどのポテンシャルを有しながら、敢えて伝統のなかに自ら身を置くことの意義を悠然と示すような凛とした強さがあり、実に清々しいものとなっています。あるべき音へのイマジネーションをフル稼働させながら、自身の眼と耳と手による極めて生物的な触覚をもとにしてそこへと着地させる、類まれな音の感性の持ち主と言えます。
そして同時に改革は伝統の現在値であることを賢明にも感得している彼は、実際にモダンスタイルと伝統工法をミックスさせることで機能と表現力を高度に両立させたモデルも製作するなど、未来に向けての鋭敏な感性も同時に併せもっていることも特徴としてあげておくべきでしょう。
21世紀における伝統継承の在り方の規範の一つともなりうる、現代アメリカのギター製作界の中でも静かに光芒を放つ、瞠目すべきブランドです。
[楽器情報]
アーロン・グリーン製作 のクラシックモデル 2005年製 No.77 国内では非常に珍しいUsedの入荷です。「完全な伝統主義者」と自らを規定するだけに外観、構造そして音響に至るまでがスペインの伝統的なスタイルを基本として構築されており、このブランドの製作哲学と高度の工作精度、そして深い審美性が十全に自然に備わった一本で、とても魅力的なモデルとなっています。
撥弦の弾性が表面板を叩くような感覚のパーカッシブな発音、それと同時に響箱の容積を感じさせる空間性が生まれてくるような音響性質はすぐれてスペイン的ですが、決して放射するに任せるような鳴りではなく、適度な粘りを加えて全体をバランスよく構築しています。このような「古風さ」をまといながら、発される艶を湛えたみずみずしい音像はいかにも新鮮で、加えて「現代的」ともいえるほどの音量的なレンジの広さと迫力(ただし決して大音量の楽器という意味ではなく)をもっています。さらに特筆すべきは各音の彫りの深さで、単旋律でも線的な繋がりと同時に深度のある立体的な空間を生み出し、そのごつごつとした音どうしの凹凸感は独特な感触がありとても面白い。しかしながら決してクラシカルな雰囲気や表情を逸脱することなく、むしろそれにふさわしく、自然に感じられるのはやはりそこに深い歌が常に表出されるからでしょう。
音色は明るさと同時にほのかな奥ゆかしさも感じさせ、これがどこかアンビバレントな相貌を自然にまとわせてクラシカルな明と暗の表現に適応してゆきます。またタッチに対する反応性が鋭敏で、木にじかに触れるような発音の生々しさがありながら同時に十分ににコントロールされており、全体の音響バランスがしっかりと構築されているところもこの楽器のすぐれた特質となっています。
外観も魅力的。飴色に近いセラック塗装はヴィンテージ風の雰囲気を醸し出しており、良質な松材と横裏板の濃茶のブラジリアンローズウッドとの対照を美しく演出しています。ロゼッタはどこか古代文様的な意匠を緻密にそして色を抑えてあしらい静かな存在感があり、ブラジリアンローズの野性味をきりっと引き締めるようなパーフリングインレイも洒落たアクセント、熟成酒のような落ち着きと同時にハッとさせるような鋭さもある佇まいが秀逸です。
表面板の力木配置は、サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバーを設置、ホール左右には1本ずつの短い力木が2本のハーモニックバーの間を繋ぐようにして近接する横板のカーブに沿って設置、ネック脚両側にとサウンドホール周りには薄い補強板が貼られています。扇状力木は左右対称7本、これらの下端をボトム部で受け止めるように逆ハの字型に配置された2本のクロージングバー、そして駒板の位置にはほぼ同じ面積をカバーするように非常に薄い補強板が貼られているという極めてオーソドックスな力木配置となっています。レゾナンスはGの下、ほぼF#~Gの中間に近い位置に設定されています。
状態も良好です。割れや改造などの大きな修理履歴はありません。全体は繊細なセラック塗装仕上げで、表面板のサウンドホール周りや下部低音側のふくらみ部などに軽微なスクラッチあとなどありますが外観を損ねるものではありません。横裏板も衣服等によるわずかな摩擦のあとがあるのみできれいな状態です。ネックは厳密に言えばやや順反りですが演奏性には問題なく標準設定の範囲内、フレットは適正値を維持しています。ネック形状は薄くそして角の取れた丸みのあるDシェイプ、弦高値は2.9/3.5mm(1弦/6弦 12フレット、サドル余剰0.5~1.0mm)。糸巻はスローン製のLeaf 柄プレート。ボディ重量は1.54㎏。