
マヌエル・ベラスケス 1966年が入荷しました。
[楽器情報]
マヌエル・ベラスケス 1966年製 Usedです。ラベルはNew York ではなくPuerto Rico となっており、1962年に彼の故郷である地に戻って精力的な製作活動を行っていた時期のもの。彼の初期の代名詞となるハウザースタイルのギターで、力木構造や表面板の型、そして音響特性に至るまでがこのドイツの名品を思わせる、しかしながら決してただのイミテーションではない深い芸術性を(つまり音楽的な充実を感じさせる)有したベラスケスならではの完成度の高い響きを聴くことができます。
表面板力木配置は、サウンドホール上側(ネック側)に2本、下側(ブリッジ側)に1本のハーモニックバー、ホール高低音側には各一枚の角型の補強プレート、補強プレートはさらにホールとネック脚の間にも一枚が貼られています.。扇状力木は左右対称7本を設置、そしてこれらの下端をボトム部で受け止めるようにV字型に配置された2本のクロージングバーという全体の設計。これは厳密にはヘルマン・ハウザーのセゴビアモデルとは若干異なり、特に駒板の位置にほぼ同じ面積の補強プレートが貼られておらず、そのためむしろ力木配置的にはトーレスに近いものとなっています。レゾナンスはF#の上に設定されています。
しかしながらなぜベラスケスがハウザーを指向したのかを改めて考えるとき、まず彼があのサントス・エルナンデスの血縁であるという特別な因縁ともいうべきものに思い当たります。もはや伝説化し誰もが知るところとなったセゴビアという「仲介者」を通じてハウザー1世がサントス・エルナンデスのギターを知り、これを基に研究を重ねあのセゴビアモデルを完成させるに至ったわけですが、当のサントスをはじめおそらく当時から現在に至るまでハウザーはスペインの製作家たちにほぼ黙殺され続けています(そのただ一人の例外があのホセ・ルイス・ロマニリョスであることは併せて認識しておくべきでしょう)。ベラスケスはドイツがスペインから汲み取った富を再びスペインの側に引き寄せるわけですが、それは必然的にスペインから遠く離れたアメリカにおいてであり、自己を他者として見つめることのできる環境だからということは強調すべき点だと言えます。その彼が上述のように敢えてトーレス的構造においてハウザー的音響を達成しえたということは何か感動すら呼びおこすものがあるのですが、そこにはロマニリョスのモダニスト的アプローチというよりもむしろ、彼自身の純粋な嗜好に基づく自然な没入が感じられます。
本器1966年製にはいかにもこの時期のベラスケスらしい、統一的な位相感のなか、全体が一つの線を形成するかのような音響バランス、和音のまとまりと構成音の明確な表出、鋭い弾性感をともなった発音と洗練された音像など、ハウザーによってスペインギターが一気に汎ヨーロッパ的な相貌を帯びるに至った後をしっかりと受け継いでいる、まさしくクラシカルな一本となっています。全体的にシャープな響きで、例えばこのあとにベラスケスが指向することになるスペイン的な太い音に比較すると細い音ということになるのですが、高音などはそれでも強さと密度があり、低音もしっかりした重心感と、シャープですが重厚感があります。そして表情はとても豊かで、よく震え深く歌う、ベラスケスならではの抒情があります。
1960年代のベラスケスのエッセンスを感じることのできる一本であることをあくまで前提にして言えば、本器は横裏板のラッカーを再塗装しており、そのためか全体的にやや「フレッシュ」な響きになってしまっている点は付記しておくべきでしょう。ハウザー的な透徹さに滋味をほんのりとまぶしたようなあのベラスケス特有の感触が、全体にきれいに磨かれたような艶を帯びています。
外観も特筆すべきもので、表面板のベアクロウが印象的な松材と横裏板の見事な杢目のブラジリアン・ローズウッドとの対称が独特の迫力を生んでいます。横裏板は先述のとおりラッカ再塗装が施されていますが、表面板はおそらくオリジナル。割れなどの修理履歴はありません。全体に弾きキズ、スクラッチ跡、打痕等の大小長短のものがあり、特にサウンドホール付近などはキズが集中しています。横裏板は再塗装後は丁寧に扱われておりきれいな状態、ネック裏は経年相応の爪キズありますが細かく浅いものなので演奏中に気になるレベルのものではありません。ネック、フレットも適正値を維持しています。ネックは薄いDシェイプで角の取れた形状(ちなみにネックとヘッド部とはVジョイントではありません)。弦高値は2.8/4.0mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は1.0~1.5mmとなっています。糸巻はLandstorfer 製が装着されており、現在も機能的に良好です。