
横尾 俊祐 Grave 2016年製が入荷しました。
〔製作家情報〕
1946年大分県生まれ。叔父である横尾幸弘のすすめで高校卒業後の1964年より河野賢に師事。1972年に独立し自身の工房を設立します。河野門下であることを如実に感じさせる、カシュ―仕上げによるしっかりとした造りのギターで、現在展開しているどのモデルもトータルバランスの優れたものとして好評を博しています。息子の真人(1975~)氏とともに同じ工房で精力的に製作していましたが、2023年1月に逝去。
〔楽器情報〕
横尾俊佑 の4つあるモデルのうち最上位機種となるGRAVE 2016年製 AEZ(製造番号) Usedです。表面板はセラック、横裏板はカシュー塗装で中南米ローズウッド仕様特有の硬質な音で、体感的に鳴りの十分な迫力がありながら、華やかさを抑えたトーンを満遍なく行き渡らせて逸脱しないところがいかにもこの製作家らしい。弦の弾性が活かされたポンっと跳ね返ってくるような発音で、撥弦の瞬間から強く揺るぎの無い音像が現れる、そのトーンの一貫性と統率された音響バランスなどのトータルクオリティはさすがにフラッグシップモデルらしい完成度の高さがあります。
表面板力木配置はサウンドホール上側(ネック側)に一本のハーモニックバー、その直ぐ上に近接するところまで伸びているネック脚の高音側と低音側に一本ずつの短い力木を設置し、ホール下側(ブリッジ側)にも1本のハーモニックバーを設置。この下側バーの高音側と低音側には開口部が設けられており、後述の扇状力木の一部がここを通過しています。サウンドホール周りにはやや厚めの台形の補強板が貼られています。扇状力木は左右対称5本、これらの下端をボトム部で受け止めるようにV字型に配置された2本のクロージングバー、それにブリッジ位置に設置されたトランスヴァースバーという設計。5本の扇状力木の両外側の合わせて2本はサウンドホール下ハーモニックバーに設けられた開口部を潜り抜けてサウンドホール近くまで伸びています。
全体にフランスの巨匠ロベール・ブーシェの配置構造を想起させますが(特にトランスヴァースバーの設置とハーモニックバー開口部を抜けて扇状力木が延伸している構造)、細部において横尾氏独自の工夫が見られます。トランスヴァースバーは5本の力木の範囲だけが1cmほどの高さに設定されており、そこから横板に到達するまでの部分は一気にわずか数ミリの低さに下がっています。バーと力木の交差部分もブーシェにおいてはバーの中に力木がしっかりと組み込まれるようにして貫通していますが、本器では力木はぎりぎりのところでバーと接触せず通過するようにして交差しています。またブーシェではボトム部分に2本のクロージングバーを設置しておりません。そして音響と音色においても決してブーシェ的なものを追随するわけではなく、むしろ師である河野賢的な方向性を確認しながら自身の嗜好の中に無理なく着地させており、その抑制された身振りにこそこのブランドの作家性が現れていると言えるでしょう。レゾナンスはF#~Gの間に設定されています。
割れや改造などの大きな修理履歴はありません。現状で表面板にわずかに小さな傷や打痕がサウンドホール付近や駒板下などに見られるほか、横裏板は塗装にほんの少し衣服の摩擦等はありますがともに外観を損ねるものではなく、とても良好な状態です。ネック、フレットなど演奏性に関わる部分も適正値を維持しています。ネック形状は普通の厚みのDシェイプ、弦高値は2.8/4.0mm(1弦/6弦 12フレット、サドル余剰2.0~3.5mm ※サドル下敷設置)。糸巻はGotoh製 でこちらも機能的に良好です。