
フェリーペ・コンデ・クレスポ Flamenco Negra 2025年製が入荷しました。
〔製作家情報〕
フェリーペ・コンデ・クレスポ Felipe Conde Crespo 1991年スペイン、マドリッド生まれ。スペイン屈指の名門フラメンコギターブランドとして有名なコンデ・エルマノスの第4世代を担う若き製作家として、マドリッド市内にあるフォメント通りの自身の工房で製作しています。
父親のフェリーペ1世 Felipe Conde Cavia は現在の「Felipe Conde」ブランドの創始者、そしてその弟でクレスポ氏にとっては叔父となる マリアーノ2世 Mariano Conde Cavia もまた現在の「Mariano Conde」ブランドの創始者であり、この二人はもともと「コンデ・エルマノス」としてフェリーペ工房(このフェリーペはマドリッドの通りの名前)でともに働いていました。
コンデ・エルマノスのブランドとしての始まりは、あの伝説的なマヌエル・ラミレス工房で名工サントス・エルナンデスと共に職人として働いていたドミンゴ・エステソ Domingo Esteso(1882~1937)が、1919年に同じマドリッドのグラヴィーナ7番地に工房を開くところまで遡ります。
エステソの教えを受けた甥のファウスティーノ・コンデ(1913~1988)がその弟達マリアーノ1世(1916~1989 )とフリオ(1918~1995)とともにエステソの工房スタッフに加わり、エステソ亡きあとは「Viuda y Sobrinos de Domingo Esteso」(エステソ未亡人とその甥達による)というラベルでこのブランドを継続してゆきます。そして1959年にエステソの妻Nicolasa Salamanca が亡くなるとラベルを「Sobrinos de Domingo Esteso/Conde Hermanos」に変更し、この時からコンデ・エルマノスの名前がブランド名として使われ始めます。「エルマノス」は兄弟の意で、この3人による共同の工房であることを示しています。
1960年代に入るとそれまでエステソを踏襲していたモデルを全てデザインから内部構造に至るまでオリジナルのものに一新。半月型にカットした有名な「Media Luna」ヘッドシェイプもこのころからハイエンドモデルの符牒として採用されます。世界的に高まるギター需要とともに、名手パコ・デ・ルシアらの人気ギタリストがコンデギターを使用するようになりさらに飛躍的にシェアを広げてゆき、ブランドとして圧倒的な不動の地位を確立します。
1980年にはマリアーノ1世がフェリーぺ5番地に工房を立ち上げ、彼の息子たち(※この二人の兄弟がフェリーぺ1世とマリアーノ2世。1970年代初頭からグラヴィーナ工房で修行を始めています)とともに製作。当初はグラヴィーナ工房と連携して製作していましたが、1988年にファウスティーノが亡くなったのを機にフェリーぺ工房は独自の操業を開始します。しかし翌年の1989年に後を追うようにマリアーノ1世もこの世を去り、2人の息子たちがフェリーぺ工房を継承。ここからフェリーぺ工房は3つのコンデ工房の中でも特に時代のニーズに柔軟な対応を見せ、安定した商業ベースを維持するようになります。
そして2010年にフェリーぺ1世は「フェリーペ・コンデ Felipe Conde」、マリアーノ2世は「マリアーノ・コンデ Mariano Conde」 としてそれぞれの独立したブランドとして工房を立ち上げ、それまでのコンデ・エルマノスの伝統を継承しながらもそれぞれの個性を濃密に注ぎ込んだ良品を現在も製作しています。
フェリーペ・コンデ・クレスポ はこのスペイン屈指の名門ブランドの第4世代を担う職人として、父フェリーペ1世に2007年に弟子入りし、2012年には職人そして製作家としての自身のアイデンティティを確立し独自のスタイルでギターづくりを始めていたといいます。ここからさらに10年後の2022年には満を持して自身の工房を設立、完全オリジナルブランドとしてフラメンコとクラシックの両ジャンルをハイスペックなモデルのみに限定し、すべて自身一人で作り上げる方式で運営しています。自らの出自への深い理解と探求をベースに、さすが21世紀の製作家らしく歴史に対する柔軟な俯瞰力とエッセンスの抽出力を備えており、これが彼のギターに伝統の濃密さと同時にフレッシュな身振りを与えていることが特筆されます。コンデブランドとして先人達の成果だけに拘泥することなく、また殊更にモダンな潮流に与することもない、現在の地点で求めるべきものを見極めており、その醒めたアプローチは(これだけの名門を一人で担ってゆくことの気負いを一切感じさせない点でも)驚嘆すべきものがあり、文字通り今後が期待される俊秀の一人と言えるでしょう。
[楽器情報]
フェリーペ・コンデ・クレスポ製作 表面板松、横裏板はマダガスカル・ローズウッド仕様のフラメンコネグラ モデル 664mmスケール、2025年製 No.91 Usedです。自らの出自たるコンデ・エルマノスというバックグラウンドについて熟知し尽くしているはずであろうこの若き製作家が、自身のオリジナルブランドとしてのモデルを開発してゆく過程で改めて仔細に参照したのが彼の祖父たちが1970年代に製作したギターだったそう。しかしながらここにはコンデ・エルマノスのあの挑みかかってくるような強さや、さらにはドミンゴ・エステソのロマンティックな気品とも異なる独自のポテンシャルがあり、あくまでも落ち着いた色彩と佇まいの中に異様なまでのスピード感と鋭利なうねりを内包した、まさしく現代の感性によるフラメンコギターとなっていることが特筆されます。
木そのものの持つ粘りが十全に活かされた、どんどんとドライブしてゆくような発音感覚がなんとも心地よく、各音どうしの自然な分離、ネグラならではの重厚さと奥行き、フラメンコにふさわしい身振りとイディオム感覚は、さすがに名門ブランドの4代目としての確かな腕を感じさせます。きりっとした高音と低音の渋く力強いうねりとの対比とバランス、ウッディな触感の音像と繊細な表情などいずれも秀逸で、スパニッシュな表現楽器としてのクオリティも実に高い一本です。
表面板の力木配置はスパニッシュギターのオーソドックスな設計と言えるものになっています。サウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に1本ずつのハーモニックバーを設置し、ホール周りはロゼッタと同じ範囲を覆うように円形の補強板が貼られています。補強板はネック脚と上側ハーモニックバーとの間にも長辺が15cm、厚さ2mmほどの角丸長方形のものが貼られています。表面板下部は左右対称7本の扇状力木とこれらの下端をボトム近くで受け止めるようにV字型に配置された2本のクロージングバーという全体の配置。7本の扇状力木は中央に配された3本が互いに平行に、サウンドホールの直径の幅に収まるようにして設置されており、残りの計4本は少し離れて扇状に拡がるように角度をつけて配置されています。レゾナンスはF#の少し下に設定されています。
2025年作だけに極めて良好な状態の1本です。全体はセラック塗装仕上げ。表面板指板脇やゴルペ板の縁部分などの数点の浅い弾きキズ、また裏板のセンター部分には長さ2㎝ほどのスクラッチが2本見られ、またネック裏も少々の爪キズあるものの、その他はとても綺麗な状態で出荷時のみずみずしさがまだ感じられます。もちろんネックやフレットなどの演奏性に関わる部分も問題ありません。弦高値は出荷時のままで2.1/2.3mm(1弦/6弦 12フレット)と充分に低い設定となっており、タッチの強さによってはビリつくところもありますが、現状を保持してのお渡しとなります。サドル余剰は1.5mmとなっています。糸巻はスペインの老舗ブランドFustero 製を装着しています。ボディ全体の重量は1.54kg。