モデスト・ボレゲーロ 1930年製が入荷しました。

〔楽器情報〕
モデスト・ボレゲーロ製作、1930年製 Usedです。横裏板がシープレス仕様であることと内部構造の特徴から、フラメンコモデルとして作られたものと考えられます(現在はゴルペ板は剥がされており、両方の用途で使われています)。ラベルには「Antigua oficiel de Manuel Ramirez」の文言が印字されており、この時すでにボレゲーロは独立していましたが、敬愛する師の名前を継続して使用することで自身が正統なマヌエル・ラミレス工房の職人であったことを訴求していたことがうかがわれます。ラベルデザインもまたマヌエル・ラミレス的な意匠を受け継いでいるのですが、工房住所のところに貼り紙をして「Desengano.2」と訂正されており、ちょうどこの時期不安定な生活の中で転居を繰り返していた様子も読み取ることができます。実際二つの世界大戦、さらにはスペイン市民戦争による世情の煽りをまともに受けたこの製作家にとって、その中間の時期である1920年代から30年代半ばにかけては例えば兄弟子のサントス・エルナンデスのように充実した製作期となったはずであろうところ、やはり相当な苦労をしながらなんとか製作を続けていたようです。

本作はまさにそのような時期の一作で、興味深く、また魅力的な一本となっています。一見してサントス・エルナンデスの影響下にあることが分かる外観(ヘッドシェイプ、ロゼッタデザインなど)で、その影響は表面板の力木配置にも如実に見て取れます。

この殊勝な製作家によって、マヌエル・ラミレス工房の、そして戦前のスペインギターのエッセンスが実に慎ましくも円満に体現されており、大変に魅力的な一本となっています。重厚で引き締まった、十分に低い重心感覚を備えた低音から雄弁な中低音、そしてシャープできりっとした、良く歌う高音へと至る鉄壁のスペイン的音響設計。響箱全体が一つの有機体となって一つの声を発するようで、その一つ一つの音が楽音としての実在性があり、洗練され、乾き過ぎず、艶があり、凛として明るい。単音での雑味のなさも素晴らしいですが、和音やアルペジオ、ラスゲヤードにおけるバランスフルな響きと各音(各弦)の明確なアイデンティティはとても心地良く、また清冽です。またフラメンコならではの反応の速さとドライブ感も申し分ありません。

おそらくフラメンコモデルとしてタフな使用をそれなりに経てきたのでしょう、表面板(駒板脇と下、指板脇など)、横裏板(ネックヒール部分とボトム部エリアなど)それぞれに数か所ずつの割れ補修歴、セラックによる全体の再塗装歴があるほか、表面板は駒板の上下でやや凹凸型の歪みが見られます。キズに関しては過去に行われた再塗装の際のタッチアップ処理を経ていることから、現状ではさほどに多くはありません。表面板のサウンドホール周辺はやや多く見られるものの、その他は衣服による擦れやスクラッチ痕が数か所にあります。またヘッドの糸倉、6弦部分に割れ補修歴があります。ネックは真直ぐで、フレットも良好な状態を維持していますが、上述の表面板の経年の歪みによりネック自体はボディに対してやや角度がついてしまった形になっており、弦高値は3.0/3.6mm(1弦/6弦 12フレット)とフラメンコとしてはやや高めな設定で弦の張りも少し強めとなっています。サドル余剰は現状で0.5mm。ネックシェイプは薄めのDシェイプでコンパクトなグリップ感です。全体の重量は非常に軽く1.14kgとなっています。