サントス・エルナンデス 1339年 が入荷しました。

[楽器情報]
サントス・エルナンデス 1939年 ブラジリアン・ローズウッド仕様のクラシックモデル、状態良好の1本が入荷致しました。Orfeo Magazineの著者である Alberto Martinez 氏による「Santos Hernandez ~Maestro Guitarrero~ 1874-1943」(Camino Verde 刊)によって、少なくとも日本では初めて、この製作家がいかに多様なスタイル(内部構造的、そしてロゼッタに顕著な外観デザインの両方において)で製作していたかを俯瞰することができたのですが、スペインギターの典型とされる音響を構築したと位置づけられるこの稀代の名工がかように多様な力木システムを発案していたのはやはり驚くべきことでしょう。

サントスが完成させたスペイン的音響とは、低い重心設定によるまさしく音響全体を支える低音から雄弁な中低音、そして「高さ」のクリアネスへと至る音響設計で、それぞれは異なる位相で鳴りながらも全体としての有機的な統一性があるというもの、とまずは定義することができます。加えて各音の(つまりすべての音の)非常な表現力で、これはやはり人間の声が基本になっていると思うのですが、これ以上ない繊細さからダイナミックさに至るその表情の豊かさも必須条件と言えるでしょう。本作はこの条件を十全に備えつつ、サントス後期特有のストイックなまでの音の密度が素晴らしい一本となっています。

撥弦には強めのしかし心地良い反発感がともない、そこからあの弾性感のある魅力的な音像が瞬時に表れてきます。それは鳴っているというよりも在るという感覚に近いもので、声のような肌理を持ち、明と暗の表情を持つ、まさしく楽音と呼ぶにふさわしい深いニュアンスを備えたものとなっています。発音されたまま霧消してゆくような音ではなくしっかりとした質量があり、終止の瞬間まで充実しているので、自然に旋律は有機的なうねりを生み出してゆきます。あらゆる音楽的な身振りに俊敏に対応する機能性の高さ、多声音楽における対位法の明確な彫りの深い響きも見事。

この「多様な」製作家にとってのスタンダードとなる一本だと明言することは控えますが、彼のあと、(直接の師弟関係はありませんでしたが)その唯一の直系と言えるマルセロ・バルベロ1世、そしてアルカンヘル・フェルナンデスへと続いてゆく美学の原型をしっかりと聴くことのできる名品です。

製作年を考慮するととても良好な状態を維持した一本です。表面板は割れ修理の履歴はなく、おそらくかなり前に一度セラックによる上塗りなどはされた可能性はありますが、それにより現状では弾きキズ等はいずれも軽微で浅いものにとどまっています。サウンドホール縁近くに3mmほどの打痕を部分補修した跡が2か所ありますが外観を損ねるものではなくほとんど目立ちません。また横裏板もおそらく過去に再塗装がされた可能性はありますが、木目の節の隙間を部分的に補修した箇所が数か所、それぞれ小さなものですがあります。また高音側ボトム付近に7センチほどの割れ補修歴がありますが、適切な補修がされており、現状で問題ありません。やはり全体にきれいな状態を保っていると言えます。ネックはほんのわずかに順反りですが標準設定の範囲内、フレットも1~3Fでわずかに摩耗していますがこちらも演奏性には全く影響ありません。ネック形状はほぼラウンドに近いCシェイプでやや厚めの設定。弦高値は3.0/4.0mm(1弦/6弦 12フレット)でサドル余剰は2.5~3.0mmあります。

詳細は上記画像をクリックしてご覧下さい。