尾野さんへの寄稿のお話をいただいてから、初めてお会いした時からのことを色々と思い返しました。

かけていただいた言葉や記憶に残っている出来事を書き出していくうちに、収拾がつかないものすごい量になってしまい、どれだけ尾野さんが私にしてくださったのかを改めて実感しています。
それらはもう少し整理して別の機会に残したいと思います。

昨年、10年ぶりくらいに尾野さんの工房で一緒にギター作りをしました。

尾野さんの作品に自分が手を付けるのは初めてのことだったので最初は少し緊張感もありました。

注文主の要望に応えるために様々な検討をされていて、そのおおよその設計図を頭の中で共有し、都度確認と相談をしながら製作を進めました。

「これやってダメだったらもう一回やり直そう!」

という修行時代には言われたことのない言葉もかけてもらいました。

「オッケーオッケー!良いよ!そこはそのくらいで!」

当時はいつもそう言われながら、大らかな気持ちで製作をさせてもらっていました。

私の性格を最初から理解して、楽しくギター作りが進められるよう指導してくださっていたのだと10年経ってようやく気が付きました。

今回作るのは自身の作品ということで、妥協のない普段の尾野さん、もしくは普段以上の執念を感じる製作過程を知ることになりました。

清水さんと交互に、週に1日尾野さんと作業する時間はとても濃く、充実したもので、習った方法から少し手順に違いがあったり、新しい一手間や手法もあって、常により良いものを目指して製作されていることを実感しました。

休憩中は新しい製作用具の話、楽器店で起きたことの話、「清水君がさぁ〜」という弟子への心配事、、これまでと何ら変わらない話をしながら過ごしたおおよそ2ヶ月間の共同製作は忘れられない経験、思い出になりました。

「好きなの持って帰ってよ」

毎回帰り際に刃物の入った引き出しの箱を取り出し、手道具をわけてもらいました。

ある時、尾野さんお手製の鞘に入った、銘の無い小さな切り出しを選びました。

「それはオレが作ったやつかもしれないよ、、え〜そんなので良いのかよ、、こっちのが良いんじゃないの?まぁいいや、、オレだと思って大切にしてよ」

清水さんを誘って7月5日、休んでいる尾野さんの横でギターを作りました。
木を削る音、カンナの台を叩く音、作業の相談、、聴こえていたら良いな、、と思いながら2人で普段通り製作をした、その日の夜中に尾野さんは亡くなられました。

してもらうばかりで、何も返せないままです。

毎週土曜日にたわいもない話をしながら店で尾野さんと勤務していた時間がとても楽しく、尊いものでした。

ちょっと尾野さんに聞いてみよう、、、
と思ってしまう度、さびしい気持ちになります。