セラック塗装のギターに限らず、人間にとって過ごしやすい気候は楽器にとっても同じで、トラブルが発生するのは、冬か夏(梅雨)に集中するようです。

ぶつけたり、落としたりは不注意ですが、割れや白化はちょっとした気配りで未然に防ぐことができます。
トラブルの多くは湿度と熱が原因です。

冬のトラブル

冬に気をつけることは、乾燥による割れです。
割れは突然起きるように思われがちですが、その前にいろいろなSOSを発しています。
たとえば表板や裏板のふくらみは少なくなり、中には平らになってしまうものもあります。
また指板は乾燥すると幅方向に収縮しますが、フレットは収縮しません。
そのためフレットがとび出てしまいます。また棹が逆反りの方向に動きます。
指板の収縮が大きいと、表板と指板を接着している(12フレットより高音)部分の隅が割れることがありますが、これは表板と指板の収縮率が違うためです。
これらの乾燥による収縮は十分乾燥させた材料を使ったとしても、ある程度起きてしまいます。
しかも最近のエアコンによる暖房は異常に乾燥します。正常に作られたギターでも長時間置かれれば割れかねません。
またほかの暖房器具でも、直接あたるところは避け、ギターが暖かくなってくることのないようにします。
SOSに気がついたら、乾燥しすぎを改善し、非常手段として補湿チューブをギターケースに一緒に入れます。
その場 合、水がたれない程度に絞り、決して塗膜に触れないように注意が必要です。冬の寒い日外から急に暖かい部屋に入り、ケースからギターを出すと温度差によって結露することがあります。
気がつかないと塗膜をいためてしまいます。その場合、急いで落ち着くまで何回もふき取るしかありません。

夏のトラブル

夏に注意するのは汗です。汗をかいている状態でセラックのギターを抱えると塗膜が白くなることがあります。ギターに触れる部分にクロスなどを当てておくと安心です。とくに腕など、肌が直接触れないように注意が必要です。

夏、汗をかいている状態でセラックのギターを抱えると、塗膜が白くなることがあります。
白くなった部分は、しばらくすると自然に消えていくことがありますが、いつまでも白濁が消えず気になるようでしたら、塗り重ねで元の状態に戻せます。
また、直射日光に当てるとかなり熱くなるので、当てないように注意が必要です。
車のトランクに長時間入れておくのも温度が上がり、危険です。梅雨などの湿度の多い日が続くようなときは乾燥剤をケースに入れておきます。

ギターは1年を通じて湿度の影響を受け、膨らんだり、凹んだりを繰り返しています。
表板より裏板、柾目より板目、ローズよりハカランダの方がより変化します。
調弦するとき、表板と裏板の膨らみの確認を習慣づけると、異常な膨らみも発見できます。気がつけば、力木はがれや割れなどもかなり防げます。
大事なギターだからといってケースに入れっぱなしにして、久しぶりに弾こうとしたら駒が剥がれていた、などということもあります。
ギターは弾き込まれることによって本来の性能を発揮しますが、状態を確認するためにもケースに入れたままはよくありません。
古いギターの多くは、何らかの修理がされています。
キズを恐れてあまり弾かないよりは、時代をつけながら弾き込んだ方がギターにとっても健康的です。
キズをまったく気にしない人もいますが、キズや摩耗で木が見えてしまう前に塗り重ねた方がきれいな修理ができます。
硬い合成樹脂による塗装と比べてセラックの塗膜はクラッキングが起こりにくく、打ちキズによる塗膜の剥がれで白くなることもなく、たまに塗り重ねの修理をしながら弾き込むと、とてもいい時代がつきます。

新しいギターを1年ほど弾き込むと、弦の張力と振動による表板の緊張が安定してきます。
つまり駒の下が膨らみ、ヘッド側が少しへこんだ状態で安定します。また棹も安定してきます。
その時点で弦高調整を必要とすることが多くあります。弾きにくく感じたら弦高を確認してください。

割れ、はがれ

ギターは様々な種類の木材が使われています。そして木材は気温や湿度によって伸び縮みしますが、木の種類によって収縮差がある為に、楽器は大なり小なりその影響を常に受けている事になります。
又、日本は四季の変化が大きいので、楽器の取り扱いには充分な注意が必要です。特に高温多湿な梅雨時と低温で乾燥している冬場は楽器にとって過酷な時期と言えますので充分な注意が必要です。
更に近年エアコンやファンヒーター等を使用する人工的な室内環境下では、急激に湿度が下がる事がありますので板割れが発生する原因となりかねません。
加湿器等を用いたり、ダンピットの様な楽器の保湿補助用品、あるいはギターペットの様な湿度調整剤を使用して、室内やケースの中の湿度を50パーセント程度に保つ事が大切です。
更に板割れが起きてしまった場合は早めに修理する事が大切です。そのまま放置すると割れが広がったり、割れの部分に手垢などの汚れが付着して修理が上手く出来ない場合があるからです。

弦高、弦幅、弦溝の調整

ギターを楽しんで弾いて行く為に、練習は勿論ですが忘れてはならないのは、ギターが自分に合う様に調整されているかということです。
例えば人の顔かたちが違うように、指の長さ、太さ、力もそれぞれ異なります。より弾き易く、より良い音を出す為にも、ナット・サドルの調整は欠かせません。

少しでも弾き難く感じたら先ず弦高を確認してください。1Fのセーハがきつければナットを、ハイポジションがきつければサドルを低く調整することで左手が楽に押さえられるようになります。いずれも右手で強めのアポヤンドでもビリつかない程度に行ないます。
弦高が低くなれば弦とフレットとの距離が縮まり、音程も安定します。新しいギターは1年位で表板と棹が安定してくるので、その時点で弦高調整を必要とすることが良くあります。

また1弦が指板から外れたり6本の弦幅が広く感じたりする時は、弦幅調整も有効です。特に手が小さい人、指の太い人は自分に合った弦幅にするとより弾き易くなります。

更に爪を綺麗に磨いているのにクリアな音が出ないとか、音程が安定せず調弦しにくいなどはナットの弦溝かサドルの接点に問題がある場合が多くあります。
特に4,5,6の巻き弦は調弦するたびにヤスリをかけているようなものなので、硬い牛骨か象牙でも磨耗し接点がくずれてきます。
弦高に問題がなくてもたまに点検することをお奨めします。

古くなって音が悪くなったと思っていたギターがこうした調整で音が元気に甦ることがよくあります。ギターの本来の性能を発揮する為にもナット、サドルの調整は必要です。

ナット、サドルの状態はギターの弾き易さ、音色に大きく影響します。弦高調整の所でも触れましたが、人それぞれ弾き方も音色の好みも違います。
また弦によってナットとサドルは絶えず磨耗しているので、消耗品と考えねばなりません。つまり、自分に合った調整を知ると同時に維持していくことが重要です。
ナット、サドルについてもう少し具体的に確認していきますと、ナットはまず「自分に合った」弦高、弦幅であることと、弦溝は各弦に合った太さで、形は半丸であることが重要です。
三角ですと弦が挟まりやすくなります。調弦の際には張っても緩めても弦がスムーズに流れなければなりません。
特に接点の所はナイロン弦がささくれたり巻弦が割れたりすることの無い様に注意深い調整が必要です。

サドルはまず自分のタッチに合った弦高であることが大切です。基本的に弦高は低ければ低いほど弾き易く、音程も安定しますが、反面強いタッチで音がビリつきやすくなります。
その形状は指板面に合った曲面をしていて、接点は鋭角すぎず、また鈍角すぎない必要があります。鋭角の場合、巻き弦が割れたり、弦が切れやすくなります。
更に角度が合っていないと雑音が生じる原因になり、クリアーな立ち上がりが得られにくくなります。

更にナット、サドルの両方に言える事ですが、ギター本体にすき間なく密着して装着してあるかどうかが大切です。
特にサドルが駒溝内で緩かったり挟まったような状態だと、かなり音に悪い影響が出ます。きちんと調整してあるかどうかは、よく言われる牛骨と象牙の材料の差よりも大きな影響があります。
時々オリジナルを重んじるあまり調整しない人や、逆に間に合わせで他のサドルを入れる人がいますが、ギターのことを考えると決して良いとは言えません。
ナット、サドルは弦によって磨耗する消耗品であり、しっかりした調整をして使用すべき物と考える必要があります。
お持ちの楽器の音色や弾き易さに疑問がある場合は専門家のチェックを受ける事をお勧めします。

ネック、指板の反り

ギターに適切な管理・メンテナンスを行なっていても起きてしまう故障がネック反りです。
過剰な温度、湿度の状態にしたり弦を張ったまま長く放置したりすることによっても起こりますが、多くは弦の張力に対するネックの強度バランスによって起こります。

反りは2種類あり、指板面が水平より凹形に曲がった状態を「順反り」、凸形に曲がった状態を「逆反り」と呼んでいます。
曲がった状態はヘッド側からか駒側からで、指板両端の角の部分を通して見て確認できます。
順反りになると指板全体の弦高が高くなり、逆反りになると特にローポジションでフレット打ち(弦の共鳴振動が指板に当たって発生する雑音)が目立つようになります。

ネックの反り具合は弦高に大きく反映されるため、弦高の状態に違和感があったら要注意です。
反りの多くは順反りで、弦の張力に対してネックの強度が弱いために起こります。
ただネックの状態としては、低音弦のローポジションがフレット打ちしにくくなるように、ほんのわずかに順反りしている方が良いと言えるでしょう。

新品のギターは一年位でネックと表面板が安定してくるので、その時点でネックの反り具合、弦高等を再確認することが必要です。
わずかな順反りなら理想の状態ですし、軽度の反りなら弦高調整で補えるかもしれません。

しかし重度に反っている場合はフレットを抜いて反った指板面の調整が必要となります。
ネックは特に左手の弾き易さと直結しているので良い状態で弾きたいものです。

フレット

弦高調整で補える場合や緊急の修理としてまれに使用する熱処理(プレス加工)を除き、ネックの反りを修理する場合には指板を調整する事になります。そこで必然的にフレットも打ちかえる必要が出てきますがその形状や質量、材質等よって音色に微妙な変化が出ます。

技術のある製作家は打ち込むフレットの締め具合で棹の反り具合を調整する事が出来ます。また湿度による指板の膨張収縮に対し、フレットは金属で出来ている為その変化は微小なものと言えます。
従ってフレットの両端の出具合が湿度変化の目安にもなります。年代の経った楽器は経年変化が原因でバリが出ている可能性がありますが、急にバリが出たり目に見えて中に入り込んでいたりする場合は、適切な湿度の状態に戻さないと大きな故障が発生する可能性があります。

この様に絶えず指板は動いているので、フレットが浮いて来ることもあります。
両端から浮いて来る事が多いため、1弦をきちんと押さえても音が出にくくつまった感じになる場合は、フレット浮きの可能性があります。

アウラでは海外の製作家からオリジナルのフレットを譲り受けていますので、フレット交換の際には元の状態に近い修理が可能です。

ギターにとってヘッドの部分は比較的軽視されがちな部分ですが、ヘッドの構造や重量等を含め、性能に影響を与える要素が他の部分と同様含まれています。
また、糸巻きのパイプ割れやギアの摩耗によって、調弦がやり難くなったり、不可能になったりする場合があります。
更にヘッド部から雑音が発生する原因になる場合もありますので、パイプやギアは消耗品と考え、経年変化に応じて交換する必要があります。
また、調弦をする際に糸巻きがスムーズに回らなかったり、キリキリと音が出たりする場合、糸巻き本体ではなくヘッドの穴に問題がある場合もあります。
ギアの負担を減らし、糸巻きを長持ちさせる為にも調整は欠かせません。
尚、新品の糸巻きはペグの動きが硬いものも見受けられますが、使用しているうちに丁度良くなる場合もあります。穴との不整合によるものかどうかはヘルスチェックの為に楽器を御持ち頂ければ点検致します。

なお、お申込みの際、上記規約と併せてプライバシーポリシーのご確認をお願いいたします。