-「このへんで、マルセロ・バルベロ・イーホ(マルセロ・バルベロII世)のことも少し話して下さい。」
本山「アルカンヘルの竹を割ったような粋な性格にしても、バルベロ・イーホの真面目な真摯に仕事に取り組む態度も、夫々の楽器に出ていますね。敢えて表現すれば似ているけれども、アルカンヘルのほうが高音部にちょっと色気があるという感じでしょうか。でも最近のアウラオリジナルのバルベロ・イーホは、生真面目な優等生を一歩出たと好評です。」
-「以前から評価が高かったけど、最近プロで使う人が増えているようですね。先代のマルセロ・バルベロI世は、伝説的になっていますが」
本山 「バルベロI世で、よい状態で残っているものは本当に少ないです。でも、私が見た楽器には、これこそ天才のなせる技と思えるすばらしいものがあります。アルカンヘルも未だに自分のやっている事は師匠にはるか及ばないと言っています。そう言えば晩年バルベロは大変古いピアノの響板を好んで表板に使用していました。それが遺品として残っていて、その中にアルカンヘルが以前献呈するつもりだったのか、イエペスとかセゴビアとか書いたものがあるのですが、経年変化で美観的に問題があり、残念ながら使えないと言うんです。ただしたった1枚だけきれいな状態で残っている板があって、99年始めにこれを使用した楽器がアウラに入るので楽しみです。」
-「バルベロ・イーホのアウラ・オリジナルモデルは、バルベロI世の型を使っているとか聞きましたが。」
本山「バルベロI世の残したボディの型にリョベートと書かれた小型のものがあったのです。これを使ってみようということになり、結果がとても良かったので、アウラオリジナルとして製作を依頼することになったのです。650mmで小型のボディを依頼したのはアウラが最初です。」
-「デザインも少し違いますね」
本山「ヘッドの形もアウラオリジナルの方が良いでしょう? このモデルを始めるとき普段は感情をあまり表に出さない彼が、珍しく興奮していました。マルセロの頭文字Mを基調にしてデザインしたラベルとモザイク、バルベロI世やアルカンヘルを踏襲したヘッドデザイン、今までのアルカンヘルの工房監修品(パラ・カサ・アルカンヘル)扱いとは全く異なるのですから当然なことですが、『これからは父親の後を継ぐ楽器を作る。』そんな意気込みを感じました。また、彼も製作数が少なくて、月に1本くらいしか作っていません。」
-「バルベロ・イーホの製作に対する考え方はどうですか。」
本山「少年の頃父親を亡くして苦労して来ているせいかとても堅実な考え方をします。例えばアルカンヘルはトランプやロテリア(宝くじ)やキニエラ(サッカーくじ)が大好きですが彼は付き合い程度しか遊びません。彼は『人生は様々な苦労が付きまとう。その上に冒険を求めても面白い事は起こらない。』と言っています。又、『製作についても同じだ』と言っていました。
-「ちょっと哲学的な言葉ですね。ハイドンやカントを思わせるエピソードです。それで、普段のバルベロ・イーホはどんな人ですか」
本山「仕事と家庭がすべての人と言ったらいいかな。とても家族を大切にしています。ほかに趣味をもったり、遊び歩いたりしませんね。毎日10時前に工房に出てきて、10時ちょうどに開店します。12時ごろになってからアルカンヘルがブツクサ文句を言いながら現れる(笑)。でも、バルベロは真面目ですけど、彼は彼で多少変わっていますよ。自分が育ってきた環境の範囲から出ることを好みません。おいしいレストランなどへ行っても、口に合わないなんて言うんですよ。かといって、無口というわけでもなく、冗談を言うこともあります。それがアルカンヘルが前に言った冗談だったりして(笑)」
訃 報
マルセロ・バルベロ・イーホは、2005年1月7日(金)未明に肝硬変で亡くなりました。年末に61歳を迎えたばかりでした。自宅にて息をひきとったとのことです。誠実で真面目な人柄であり、ギター製作一筋の人生でした。謹んでご冥福をお祈り致します。