A:「マルセリーノ・ロペスはアルカンヘル、ロマニリョスと並んでヨーロッパではかなり高い評価を得ているそうですね。音色は彼らの作品とかなり異なると思いますが。」
B:「原点としてサントス・エルナンデスから出発しているという意味では、全く別の流れというわけではありません。ただ、楽器の持つ要素の中の何を取って何を捨てるかという点で、夫々の個性が色濃く出た形となっています。」
C:「確かにロマニリョス、アルカンヘル、ロペスは同世代で、しかも若い頃同じマドリッドの下町のラティーナ地区に居た訳で、お互いライバルとして密かに相手を意識していたとしても不思議では無いですね。」
B:「アルカンヘルはフラメンコ奏者から出発したのに対して、彼はずっとフォルテアに師事して、師とタレガの曲を愛して6年間も本格的に演奏を学んでいます。それで彼自身が弾く楽器という意味で自分の身の丈に合った楽器、つまりサントスの向こうにあるトーレスを強く意識した作風になって行くのは当然かもしれません。」
A:「というと音色がトーレスに近いと言えるのですか。」
C:「そこまでは言いきれないにしても、サントスの独特な重い低音とは趣を異にしたふくよかな立ちあがりの音作りをしています。」
B:「ロペスはマドリッドのアテネオ劇場で師フォルテアに捧げるリサイタルを開いた事もあります。その時に使用したサントスモデルの楽器が現在アウラにありますが、この記念モデルはかなりサントスを意識した作りで、サントスの未亡人に手ほどきを受けた数少ない製作家としての本領を発揮しています。しかし、同時にトーレスを深く研究している事や、晩年のエルナンデス・イ・アグアドの作品に関わっているいる事でも分る様に、常に原点に何があるかを鋭く追及する姿勢を崩していません。」
A:「それで彼にはアグアドモデルやトーレスモデルに思い入れがある訳ですね。」
D:「確かにマルセリーノ・ロペスはアグアドモデルで有名ですね。大御所となってしまったせいか、最近はあまり日本に入っていないようですが、製作本数は少ないのですか?」
C:「若い頃はたくさん作っていましたが、69歳という歳のせいか、最近はかなり少ないですね。年間数本くらいでしょうか。ただ、研究に割く時間等が増えているせいもあるので、決して製作意欲が衰えている訳では無い様です。」
B:「彼の作品の良さは、あくまで音質を重視している点です。やわらかく、味わい深い音色は彼独自のものでしょう。現在、多くの製作家が広い会場で堂々と鳴るギターを目指していますが、ロペスはそれとはちょうど正反対と言えるのではないでしょうか。しかしこれは、けしてコンサートホールで鳴らないという意味ではありません。」
C:「独特なしなやかな甘さのある音色には、他の楽器にない不思議な魅力があります。」
D:「やはり真骨頂はその音色にありますね。「ステージで弾くことより、自室で慈しむように音を味わいたい」と思われる方には、最高の選択肢のひとつだと思いますよ。張りも適度です。私も歳と共に指が弱くなってきましたし、練習時間がとれないから、ロペスあたりに買い換えようかと思っています。」
B:「確かに彼は理想の楽器というのは出来る限り人間の声に近づくべきだと言っています。あくまでも柔らかい理想のベルカントの声が最も通る音で、その点で現代の製作家やギタリストの多くは勘違いをしているというのが彼の考えです。」
A:「ロペスは古楽器に造詣が深いですよね。」
B:「古楽器の研究はロマニリョスに並ぶ資料を収集しています。しかもビウェラやリュート、バイオリン属もつくりますし、クラビコードから家具まで作ってしまう。本当の意味でLuthier(ルティエール)と言えるのは彼ぐらいでしょうね。」
C:「アウラ写真館にあるように、彼の工房では、ギターや、リュートや、ビウェラなど、いくつも同時進行していて、常に何本かぶら下がっています。」