A:「サントスと言うと、現代的なギターの父という感じがしますね。」
B:「トーレスが、ギターを知り尽くした創始者とすれば、サントスは現在のコンサートスタイルの基礎を確立した製作家と言えるのではないかと思います。ギターに求められる音はすべてサントスの中にあると言われたり、ある面で頂点を極めた楽器という評価が与えられています。感じ方にもよりますが、「これこそスペインのギター」とでもいうような、原点を強く感じさせるギターです。
C:「サントスの特徴として誰にでもすぐにわかるのは、太くて底力のある低音でしょう。その源流はトーレスからの流れに見られるのですが、サントスはとりわけ低音に特徴があり、トーレスの色彩感よりは力強さ、重厚さを重視していたと言えます。ひとくちに重厚さと言っても、サントスの場合は、独特の弾みがあって、現代の多くのギターに見られる低音とはかなり質が違います。重く、太いけれど、押しつけがましい耳障りな音にならず、自然な心地よい余韻があります。
高音は楽器にもよりますが、幾分乾いた感じの、甘さを少し抑えた音色です。べたつかず、芯のある音ですね。しかし、硬いというのではなく、どこか木肌を思わせるような、なつかしい温かみがあります。ろうそくの光をイメージしてもらうといいかもしれません。
こうしたサントスの特徴は、ウルフ・トーンを低めに設定していることと密接な関係があります。」
D:「サントスは男性的というか、力強い張りのある音です。弾き易さからすると、あまり強靭な印象はないのですが。」
A:「サントスの音は、トーレスからマヌエル・ラミレスまでの流れとは少し違う感じがしませんか?」
C:「トーレスからの流れは、言わばクラシカルな音づくりですが、サントスはそこにスペイン的な香りを作り出したと言えるでしょう。それはマルセロ・バルベロI世、アルカンヘル・フェルナンデス等に引き継がれて行くことになります。」
D:「その音づくりは、同時代にセゴヴィアが始めた大きなホールでの演奏と関係があるのでしょうか。」
C:「何とも言えませんが、セゴヴィアがサントスにいろいろとアドバイスした、というか、初期のサントスの音や遠達性が、セゴヴィアが望む方向に変化していった可能性はあると思います。」
B:「サントスはマヌエル・ラミレスの工房で中心的な存在でした。セゴヴィアがマヌエル・ラミレスから譲り受けた楽器がサントスの作品であったことは良く知られています。でも、ロマニリョスの記述によれば、マヌエル・ラミレスは、単に職人達のマネージャ役をしていたわけではなく、自身がすぐれた技量をもち、アイデアと向上心に富み、エネルギッシュで職人達に慕われる人望をもっていたようです。寡黙なサントスは、おそらくマヌエル・ラミレスの工房で多くを学んだのでしょう。話がややそれますが、マヌエル・ラミレスは、自分の工房の作品を職人達が力を合わせた努力の結晶と考えていたようですから、セゴヴィアが最初に手にしたマヌエル・ラミレスもサントス一人で製作したものではないかもしれません。」
D:「いずれにしてもサントスを見ると、すぐれた職人が良質の材料や環境に恵まれ、思う存分その力を発揮することができた幸せな時代からの贈り物のような気がします。」