2002年6月、製作家ロマニリョスの誕生日に開催されたサプライズパーティーに参加しましたので、その模様を報告させていただきます。
6月16日(日)
今日の午後から愈々サプライズパーティーの行われる修道院があるシグエンサへ向かう事になる。前日、今回同行する事になったギタリストの掛布雅弥氏と列車の切符を買っておいたものの、今日になったらいろいろ変更事項が重なって、結局現地在住のギタリスト高木真介氏の車で現地に向かう事になった。流石に車で行くと早いもので途中のドライブインで軽食を取ったにも関わらず2時間程度で現地に到着。このパーティーの主催者オルディゲスやロマニリョスの息子リアンが出迎えてくれる。一寸着いたのが遅かったせいか、部屋で休む間も無く歓迎レセプションが始まる。ペペ・ロメロ、ホセ・マヌエル・カーノ達のギタリストや製作家の中野潤氏等顔見知りも含め既に多くの人々が集まっている。明日の誕生日には更に増えて120名近くの参加者になると言う。夜のふけるのも忘れて初日からもうあちらこちらでギター談義での花が咲いている。明日の彼の誕生日のイベントは相当盛り上がりそうな予感がする。
パーティー会場となった修道院
6月17日(月)
朝食までは未だ時間があると言うのに早朝からギターの音で目が覚める。簡単な朝食を済ませて、アルメリアから夫婦で訪れたトーレスの曾孫フランシスコ・サルバドール・ヒメネスとちょっと話をしているうちにあっと言う間に時間が過ぎて行く。11時には愈々ロマニリョスがサプライズパーティーの会場に現れる事になっているので、その前に掛布氏の妹さんと高木氏の車で慌てて街に出て、銀行で少々換金するがトラベラーズチェックの扱いに慣れていないのか、コンピューターに弱いのか散々待たされる。
漸く換金が終わって戻ると11時ギリギリで、ちょうどロマニリョスを迎えるところに間に合った。ペペ・ロメロを始め、世界中からこれ程多くのギタリストや製作家が、こんな辺鄙な田舎の修道院に集まるという事からして、ロマニリョスの功績がいかに大きいかを物語っている。
何も知らされていないままやって来たロマニリョスは、驚きを通り越して感激でもう言葉も出ないほど。既に目頭が涙で少し光っている。今朝になって、「誕生日だから記念にちょっと講習会をやった修道院へ行ってみよう」と息子のリアンに誘われて来たそうだ。会場で乾杯した後で、一人一人のプレゼントが渡される。その度に抱擁して皆に友人を紹介し、プレゼントを開けて見るので、これだけでもちょっとしたイベントだ。
グラナダからはホセ・マヌエル・カーノ夫妻や夫妻やベルンド・マルティンが来ている。ギタリストはアメリカからペペとセリン・ロメロの兄弟、ギリシャからはアンティゴーニ・ゴーニ、そして日本からは掛布雅弥、ドイツからはヴィルフィン・リースケも駆けつけるという。バルセロナからはトーレスを持ってカルロス・トレパットが、マドリッドからはイグナシオ・ローデス、メキシコからはミゲル・アエヘル・レハルサと多彩な顔ぶれだし、製作家も、ゲルハルト・オルディゲス、トビアス・ブラウン、ベルギーの新人アンドレ・ブーレ・アリアスや中野潤等の友人も含め、20名近くの門下生や知り合いがこの祝いの席に駆けつけている。
アンドレとロマニリョス
フランシスコ・サルバドール・ヒメネス(ビスニエト・デ・トーレス)とロマニリョス
オルディゲスとロマニリョスの息子リアン
昼食を取って旧交を温めているうちにもう夕方のコンサートの時間となる。会場は礼拝堂、掛布氏は2番手に演奏するが最初はちょっと緊張したのか、マジョルカは無難な演奏となったが、タンスマンのダンサ・ポンポーサでその実力を発揮。アンテイゴーニ・ゴーニの華麗なテクニックと、カルロス・トレパットのメロウなトーレスの音色も印象的ながら、とりを取ったペペ・ロメロの演奏は、やはり他を圧倒する貫禄を感じさせる音色と風格が感じられた。
9時からの夕食が終わると急に涼しくなり、食後の散歩に外へ出ると三日月の月明かりを頼りに暗い小道を歩くと降って落ちて来そうな満天の星。掛布氏と同行した彼の御兄さんは星座にも詳しく、ひとしきりその話で持ちきりとなって戻って来ると、玄関のポーチ付近でホセ・マヌエルを囲んだフラメンコの集いとなっていて、皆盛り上がっている。少しだけ聴いて、部屋に戻ってベットに入ったが、外はますます佳境に入り、夜中の1時頃迄そのギターと唄声が聞こえていた。しかしその宴が何時終わったのかは夢の中に溶け込んだ意識の預かり知らぬ事。後で聞いてみると、どうやらお開きになったのは3時頃だったらしい。
アンティゴーニ・ゴーニとフランシスコ・サルバドール・ヒメネス
6月19日(火)
今朝も快晴。修道院の朝食は簡素なもので、パンと小さなオレンジとインスタントコーヒーのみ。朝から中野潤氏は明日のスペイン全土のゼネストを心配して、場合によっては空港で一夜を明かす覚悟と少々神経質になっている。食事を終えて10時からペペ・ロメロが全楽器を試奏してその製作家と楽器をロマニリョスが紹介すると言うイベント。試奏は短かいが、紹介の方はその人物と楽器について長々と続き休憩を挟んで午後1時頃迄続いた。
ビスニエト・デ・トーレスを弾くペペ オルディゲスを弾くペペ
昼食の後、奥様のマリアンと四方山話のついでに訪日の可能性も聞いてみるが、未だ何とも言えないとの事、但し大いに興味はありそうだった。その後、日本人全員でパラドールの喫茶室へ。ひとしきり話が弾み、帰ってみると既に午後の6時からのコンサートは前半が終わって丁度掛布氏が弾く所、今日は昨日よりずっと落ち着いた良い演奏だった。それと今夜は遅れて着いたヴィルフィン・リースケがサントス・エルナンデスを持って登場。ドイツ人でありながら得意のスペインもののレパートリーを披露して喝采を浴びる。彼は無二の親友の製作家、ベルンド・マルティンの住むグラナダへ一緒に行きサントス・エルナンデスの研究を一緒にすると言う。
食事の後はロマニリョスも参加して別のサロンで持参した楽器とは別のギターでの小コンサート。他の人の所有するギターでも、そこはプロの集まりだけあって、皆夫々の楽器の特徴を素早くつかんでその魅力を引き出すのはさすがだ。別のロビーではリースケがさっきコンサートで弾いたばかりなのに、楽器の弾き比べを始めていて、何人かが集まって熱い視線を注いでいる。
どちらも少しずつ聴いて、其の後はちょっと落ち着かないが、どうも風邪気味なので諦めてさっさとベッドに潜り込むが、夜の宴は昨夜より長い。前庭でフラメンコの集いも始まった。カンテ、ギター、皆の声とパルマが頭の中を駆け巡る。間違いなく今、スペインに居る。