Flavio Nati フラビオ・ナチ クラシックギターリサイタル
2017年12月10日 アウラ サロンコンサート
2017年の最後を飾るサロンコンサートはイタリアの俊英フラビオ・ナチを迎え、ダウランドから地元イタリアの作曲家ペトラッシの現代曲まで、店内イベントとしては非常に濃密なプログラムを披露してくれました。
当日は満員、今回が初来日となる新進の演奏に対する注目の高さがうかがえ、熱気に包まれたリサイタルとなりました。
当日のプログラム
<第一部>
*ジョン・ダウランド(1563~1626)
前奏曲
ファンシー
*ゴッドフレード・ペトラッシ(1904~2003)
ヌンク
*ジュリオ・レゴンディ(1822~1872)
練習曲第4番(10の練習曲より)
<第二部>
*アレクサンドル・タンスマン(1897~1986)
パッサカリア
*ベンジャミン・ブリテン(1913~1976)
ノクターナル(ダウランドの主題による変奏曲)
<アンコール>
*原博
ギターのための挽歌
*エミリオ・プジョル(1886~1980)
タンゴ
ヨーロッパでは既にいくつものコンクールで入賞を果たしているフラビオ氏だが、今回満を持して東京国際ギターコンクールに出場するために初来日となった。サロンコンサートの1週間前に行われた本選では大接戦となるなか3位に入賞。今回のプログラムにも組み込まれたペトラッシやタンスマンなどの演奏で聴衆の注目を集めていました。
実際にお会いするととても礼儀正しい、紳士と言うより素晴らしい好青年という印象。
すらりと背の高いモデルのようなスタイルで手足も長いが、手は意外にも小さい。それを指摘するともう一方の左手を見せてくれて、右手に比べてほとんど一関節分指が長くなっている、まさにギタリストの指だ。
使用楽器は同国の製作家Leonardo De Gregorio のギター。コンクールやコンサートを数多くこなすギタリストのもはや基本仕様といってもよいダブルトップタイプの楽器。確かに音量、音響、反応性のどれもダブルトップならではの特徴を備えたものだが、音色はどちらかと言えば乾いた古雅な味わいがあり、実際に彼が演奏するのを聴いてみると細やかな表情の変化にも繊細に反応しており、新しいものと伝統との融合を意図しているようにも感じられるところ、やはり新世代の感覚があるようだ。
コンサートはダウランドの前奏曲とファンシーで幕を開ける。前奏曲冒頭の音からしてまさしくダウランドと思わせる音楽世界を一気に創り上げる。
この作曲家特有の清澄な悲しみともいうべき情緒にも不足ない。
ダウランドの世界から一転、現代作曲家による極めて現代的な曲、ペトラッシのNuncへと続くが、日本ではまだなじみの少ないこの楽曲、フラビオ氏自身が現代音楽の中でも非常に高く評価している。様々なテクニックを駆使した無調の幻想的な曲を、やはり曲の深いところを見つめるように豊かな表情で弾き切る。ダウランドとこの曲を併置してしかし自然に聴かせてしまうのも彼の力量だろう。
前半最後はレゴンディの美しいエチュード。形式の中に無上のロマンティシズムを込めたこの佳品において、その情趣を余すところなく伝える演奏。
後半<第二部>は彼のギタリスト/音楽家としての個性が最大限に活かされたプログラム。
タンスマン作曲のパッサカリアはセゴビア・アーカイブより近年出版されたこの作曲家の隠れた傑作。演奏前のコメントでバッハのオルガン曲への言及があったとおり、堅固で緻密な対位法の展開の中に劇的な音楽が現れる。
フラビオ氏の演奏はダウランドでもレゴンディでも対位法の処理が実に巧い。それぞれの旋律のパースペクティブを明確にしながら、歌うべきところをしっかりと歌い、表情の緩急も実に自然で説得力がある。コンクール常連の若手にありがちな技術偏向とは正反対で、彼の演奏はその曲が持つ情趣や作曲家の意図を読み取り、深い音楽として提示しようとする真摯な姿勢があると思う。
プログラム最後はブリテンのノクターナル。ここでコンサートの最初にダウランドを配置した意図も明確になるとともに、このように幻想的な説話性に富んだ楽曲はいかにも彼にふさわしい。当夜の聴き手は彼の演奏を聴きながらそれぞれ様々な夢のイメージを描いたのではないだろうか。
深い余韻を残してプログラムを終えたあと、満場のアンコールに応え原博作曲のギターのための挽歌を演奏。AURAスタッフからの提案で当店でパワープッシュしている若手製作家の清水優一氏のロマニリョスモデルで演奏していただいた。この楽器の凛としたクリアな音が清澄な表現とぴったりと合い、味わい深い演奏となった。再びのアンコールに応え、最後はプジョールの洒脱なタンゴでコンサートを締めくくる、このあたりの選曲もしゃれている。
コンサート後はギタリスト志望の若い方達が質問したり、Leonardo De Gregorioのギターを試奏したりとしばらくのにぎわい。常に笑顔で真摯に応える姿は実にすがすがしい。
2018年にふたたび日本を訪れると約束してくれた。今後の活躍が楽しみなギタリストである。
Flavio Nati フラヴィオ・ナチ プロフィール
イタリア、ローマ出身
8歳からクラシックギターを始める。
ローマの名門サンタ・チェチーリア音楽院を優等な成績で卒業。
オランダのマーストリヒト大学にてクラシックギター演奏における修士号を獲得。
2016年イタリアの権威ある”Michele Pittaluga” クラシックギター学術協会より、
この年最も将来を嘱望される若きギタリストに選出される。その後母校サンタ・チェチーリア
音楽院にて現代音楽解釈についての課程を終え、現在はソロにとどまらず室内楽、オーケストラとの共演
も含めヨーロッパ各国での演奏活動を展開している。
ヨーロッパの権威あるいくつもの国際コンクールにて1位入賞を果たし、現在その動向が最も
気になるギタリストの一人。今回が初来日だが、コンサート先立って参加した第60回東京国際ギターコンクール
では第3位に入賞した。
受賞歴
■ 1st Prize “Fernando Sor” Competition – 2014
■ 1st Prize “Rospigliosi” Competition – 2014
■ 2nd Prize “Città di Gargnano” Competition – 2013
■ 2nd Prize José Tomàs Competition (junior) – 2013
■ 1st Prize “Ferdinando Carulli” Competition – 2012 (chamber music)
■ 1st Prize “Ferdinando Carulli” Competition – 2011