歌の国、イタリアから、ロマンティックな情感と技巧の洗練を併せ持った俊秀ギタリストが来日、ギターショップアウラでスペシャルプログラムでのサロンコンサート開催が実現しました。Carlo Fierens カルロ・フィーレンス 数々の主要な国際コンクールで1位入賞、ヨーロッパ各地、南北アメリカ、そしてアジア各国で演奏活動を展開している注目の若手ギタリストです。ギターという楽器の多彩な音色を曲の表情に応じて使い分けながら、テンポの緩急を自在に操り音楽の感興を一気に高めていくその演奏は、このギタリストの類まれな芸術性を十全に顕しており、そのコンサートは各地で熱賛を博しています。
今回の来日にあたり彼が用意してくれたプログラムは彼の最も得意とする「歌」、つまりオペラを素材として作曲されたギター曲をセレクトした内容。モーツァルト、ヴェルディらの名曲たちに魅せられたギタリスト達による様々な形式の楽曲。
当日はアウラ在庫品よりスペインの名工アントニオ・マリン・モンテロと、そのマリンに師事し国内ではスペイン式製作法の嚆矢とされるアルベルト・ネジメ・オーノ氏のそれぞれ2019年新作ギターをセレクトし、一部を弾き比べの趣向で楽しんでいただけるプログラムも。名手と名器との組み合わせにより、音色の変化を体感できる、充実したコンサートとなりました。
2019アウラ サロンコンサート シリーズ
カルロ・フィーレンス ギターリサイタル <A Guitar at the Opera>
日時:2019年6月2日(日)
当日の演奏プログラムは以下の通り
フェルナンド・ソル Fernando Sor (1779-1838)
モーツァルトの魔笛の主題による変奏曲 Variations on a theme by Mozart, op. 9
ヨハン・カスパール・メルツ Johann Kaspar Mertz (1806-1856)
幻想曲「イル・トロヴァトーレ」 Fantasy “Il Trovatore”, Op 86
フランシスコ・タレガ Francisco Tarrega (1852-1909)
椿姫の主題による幻想曲 Fantasy on themes from “La Traviata” by Verdi
アグスティン・バリオス・マンゴレ Agustin Barrios Mangore (1885-1944)
森に夢見る
マウロ・ジュリアーニ Mauro Giuliani (1781-1829)
ロッシニアーナ 作品119 第一番 Rossiniana op. 119 n. 1
フランシスコ・タレガ Francisco Tarrega
グラン・ホタ Gran Jota
アンコール
フランシスコ・タレガ Francisco Tarrega
アルハンブラ宮殿の思い出 Recueldos de la Alhambra
(アルベルト・ネジメ・オーノ アウラオリジナルモデル2019年新作使用)
エンニオ・モリコーネ Ennio Morricone(1928~)
ガブリエルのオーボエ Gabriel’s Oboe
(Antonio Marin Montero アウラオリジナルモデル2019年新作使用)
ギター曲としては大曲にしていずれも難度が高く、しかも表現の細やかさとダイナミックさ、そして全体の構成力が問われる曲をフィーレンス氏はセレクトしている。1曲目の「魔笛」から氏の特性が良く表れ、各変奏の表情の弾き分けとテンポの設定、どのフレーズもまったく破綻なく弾き切る技術の冴え、音色はクリアで渋く、多彩というわけではないのだが、音楽は実に細やかにそして非常な起伏の変化をもって進んでゆく。すっきりとしているようで濃密な演奏である。それは次に演奏されるメルツとタレガ(アルカス)の2曲でさらに明確になる。「イル・トロヴァトーレ」での押しつけがましいヴァーチュオシティの一切ない、それでいて曲を通じてまったく弛緩のない圧倒的推進力は素晴らしい。そして「椿姫」、この曲がいかに立体的な音空間をギターで成し得ているかがよく分かる、構造的かつ名人芸の愉楽にも不足のない演奏。
「ロッシニアーニ」と「グラン・ホタ」で彼のそのダイナミックな演奏特性が更に十全に発揮され、あのめまぐるししい展開の中でしっかりとリズムと表情の変化を描き切るテクニックはやはり素晴らしい。もしかしたらタレガの曲などは、人によってはもっと濃密なスペイン的なロマンティシズムを求めることもあるかも知れないが、タレガという作曲家の、旋律の構造的な作曲センスが明確にされた演奏を聴けるのはそれはそれで心地よい体験ではないだろうか。
アンコールでは1曲目にモリコーネ作曲の「ガブリエルのオーボエ」。この曲ではアウラ展示品よりアントニオ・マリン・モンテロを使用。あまりにも濃密な本編のプログラムの後に、ある意味オペラの発展形とも言える映画の、同国イタリアからその最大の巨匠の作品をセレクトしてくるところはなかなか心憎い。マリンのギターを弾くフィーレンス氏はこのロマンティックな曲をやはり渋めの音色で弾くのだが、ギターが持つグラナダ的な解放感と不思議にマッチして魅力的な佳演となった。
コンサート最後のアンコール2曲目は同じくアウラ展示品よりアルベルト・ネジメ・オーノ製作のギターを使用して、「アルハンブラ宮殿の想い出」で締めた。
フィーレンス氏自身が使用するギターはイタリア人製作家Mario Garroneによるもので、外観からもそれが個性的なものであることがうかがえるのだが、実際の音も非常に特徴的。各弦各音の分離が際立って良いのはフィーレンス氏の技量によるところも多いと思うが、この楽器の特性でもある。音量も申し分ないが、モダンギターにしばしば聞かれるような節操無い大音量というわけではない。特に個性的なのは中低音から低音にかけての非常に粘りのある発音で、それが高音のクリアな粒立ちと絶妙なバランスを形成している。と同時にこれが各旋律の音色的な対比に効果的で、フィーレンス氏はこの特性を活かしきって曲を構成するので、どの曲も対位法の明確になり、それにより曲のスケールが、まさにオーケストラ的な大きさを獲得しているのだ。その意味でもオペラティックな表現と言ってもよいかもしれない。
Carlo Fierens カルロ・フィーレンス プロフィール
イタリア、フィナーレ・リーグレの生まれ。プロギタリストである父親のギレルモ・フィーレンスの教えでギターを始める。イタリア国内のいくつかの名門音楽学校を全て最高点で卒業。類まれな音楽性と演奏技術が高く評価され、早くから演奏活動を始める。10を越える国際コンクールでの1位入賞を果たし、2013年にはイタリア国内の全ての音楽学校生徒たちのなかでの最優秀の一人として「イタリア国家芸術賞」を受賞する。現在はヨーロッパ、アメリカ、アジア各国で精力的に演奏活動を展開し、またギターだけにとどまらず音楽に関する広範な学問を修めた彼は教授活動やレクチャーの開催などにも力を注いでいる。各国のメディアからの注目度も高く、TV、ラジオに多く出演。彼の演奏の特徴はロマンティックな情感とそれを支える極めて高度な技術とに加え、楽曲のどんな微妙な表情の変化にも反応する感性の鋭敏さとその劇的な表現にあるとされている。すでに国際的な評価を得ている彼だが、学究心は常に高く、クレモナ大学の音楽理論専攻を卒業後は、スイスのポール・ザッハー財団音楽アーカイブで現代ギター音楽に関する研究を修了。2018年にテデスコ、ヒナステラ、ビーザーらのソナタを収めたライブレコーディングCD「Guitar Sonatas and…」をダヴィンチクラシックより発売。
Carlo Fierens ウェブサイト:https://carlofierens.com/