ギターの練習は、ギターを持ってするのが当たり前なわけですが、ギターを持たない練習というものを提案したいと思います。
一日に4時間以上も練習時間が取れる方は別として、多くのアマチュアにとって練習時間は思うようになりません。特に社会人の方は一日に30分触れたらいい方ではないでしょうか。
帰りが遅くて、とても音を出せない場合もあるでしょう。このような方々に試みていただきたいと思います。
またここに挙げる練習は、指の故障の予防、練習前の柔軟体操、コンクールや発表会の当日の調整に効果を発揮すると思います。
読んだだけでは、「なんだ、これだけか」と思われるかもしれませんが、ぜひ実際に試みていただきたいと思います。
でも、やりすぎれば逆に手を壊してしまう可能性もありますので、絶対に無理はしないようにお願い致します。
期待できる効果
- 各指の独立性がよくなる。
- 長時間の基礎練習をしなくても、スラーがきれいに鳴る。
- 練習前に行うと、手が早く暖まる。
- 続けてやると、普通1週間程度で効果が実感できるようになる。
指全体の柔軟性を高める練習
まず、グー・パーの繰り返しです。これを甘く見てはいけません。1秒間に1往復する速度から始めます。やわらかくなってきたら、動きを小さくして、1秒間に2往復します。指の動き(開き)を小さくすれば負荷を減らすことができます。動かす速度は、慣れるにつれて次第に早くしてください。連続してやる必要はありません。2往復ごとに間隔をおきながらやってください。写真は左手だけですが、右手もやりましょう。
目的:血行を良くして柔軟性を高めることと敏捷性の訓練です。ゆっくりやっても柔軟の効果があります。敏捷性を高めるには速度をある程度上げないと効果がありません。でも焦らずに、速度は少しずつ上げましょう。
各指の敏捷性を高める練習(1)
握る、はじく、の繰り返しです。テーブルの面で摩擦が起きる以外は前項と同じ要領です。親指の支えは、あってもなくても結構です。負荷は軽いので、2~5往復を1単位としてください。タオルなどを敷くと摩擦の程度を調節できます。ひざでやれば電車の中でもできます。もっとも、ジーパンでもないと擦り切れてしまう可能性がありますが。負荷を軽くするには、動きを小さくしてください。摩擦なしでも効果はあります。
ポイント:動かす指以外は、できるだけ力を抜いてください。
各指の敏捷性を高める練習(2)
今度は少し負荷が大きくなりますので、あくまで慎重にお願い致します。まず、人差し指と親指で丸(OKサイン)を作ります。このままで前項と同様に、小指から1本ずつ「握る・はじく」を行います。動かす指はテーブル面で少し負荷をかけ、1秒間に1~2往復を目安に、1本あたり1回5~10往復程度動かしてください。丸を作っている指は、なるべく力を抜きます。指先がやっと触れているくらいでかまいません。
小指と薬指については、動きにあまり問題はないでしょう。中指になると、もたついてきませんか? 薬指が一緒に付いてくる感じがすると思いますが、気にしないで、気持ちを中指に集中し、他の指の力を抜いてください。薬指は外側に出ているほうがいいと思いますが、自分で無理のない方にしてください。動きに余裕のある方は、薬指を内側に置いた時と外側に置いた時の両方を練習してください。
ポイント
- この練習は、「できるか、できないか」ではなくて、「いかに他の指の影響から逃れて自由に動けるか」を目的としていますから、力んではいけません。なんとなくやる感じです。
- 3~4日軽くやってみて、慣れたら指1本あたり10往復5セットが1回分の目安です。もちろん、はじめは回数を減らして様子を見てください。
- テーブル面に触れるのは、動かす指だけです。
休憩。。。ここまでやってみていかがでしょうか。結果をぜひお知らせください。「こんなこと、やるまでもない」「効果はあるかもしれないけど、取り立てて練習というほどの事はない」「これってトリルの練習と同じじゃない?」など、いろいろご感想がおありと思います。また、効果はその方のレベルによって異なると思います。単に柔軟だけの意味しか果たせないと、「効果がなかった」という印象かもしれませんし、最大限に効果が上がった方では「ギターを持った時の感触が違う」「スラーの鳴り方が違う」「指の動きが滑らかになった」といった効果が感じられると思います。次の点を補足しておきたいと思います。
1.この練習はあくまで補助的な手段であり、この練習によってギターがうまくなったり、新しいテクニックを習得できるわけではありません。レベルを維持したり、新しいテクニックを習得しやすくするのが目的です。
2.一見トリルの練習と同じに思えるかもしれませんが、正逆2方向への急速な動きを交代に行うことに意味があり、力をいれてゆっくり行うトリルの練習とは根本的に異なります。
3.左手小指が弱い方はたくさんいらっしゃるでしょう。これを上手にコントロールするには、小指だけの訓練では不十分ですし、効果が上がりません。薬指も大切ですが、中指の役割がこれまで軽視されてきたように思います。中指は、左手全体のバランスをコントロールする、きわめて重要な指です。これが柔軟でないと薬指が引きずられ、当然のことながら、小指に力が入りません。
4.慣れてきたら、1秒に3回くらいの速度でやりましょう。でも、調子がいいときでさえ、無理は禁物です。やりすぎて 弾けなくなったら何の意味もありません。軽めでやめておいてください。薬がよく効くといっても、たくさん飲めば更に効果があるわけではないのと同じです。
各指の敏捷性を高める練習(3)
さらに負荷が大きくなります。中指と親指で丸(OKサイン)を作ります。このままで前項と同様に、小指から1本ずつ「握る・はじく」を行います。人差し指については、これまでと逆になりますが、同様に行います。早くやると意外に人差し指がもたつきませんか? 薬指では無理をしないでください。力を抜いて軽く、ゆっくりめにやりましょう。
あとは同じ要領で各指で丸をつくり、他の指で「握る・はじく」を行います。くどいようですが、薬指では無理をしないこと。
各指の敏捷性を高める練習(4)
続いて負荷が大きくなります。軽くにぎった形からスタートし、人差し指から順にはじき出す運動で、ちょうどラスゲアード奏法の逆順になります。無理の無いように、ゆっくり始めてください(危険が伴うことをお忘れなく)。写真は順にはじき出す様子を示しています。少し要領がつかめてきたら、小指をはじき出したらすぐに人差し指にもどり、連続してサラサラと流れるように練習してください。
注意:薬指をはじき出す際に、小指が一緒に動いてしまうかもしれませんが、無理に動きを独立させようとせず、成り行きにまかせてください。少しだらしないくらいの楽な動きから始め、最終的には、1本ずつ瞬間的にはじき出せるようにしてください(薬指を除く)。
セーハの補助練習
セーハの力をつけるのはなかなか難しい課題です。初心者のうちは力まかせに押さえがちですが、指の柔軟性が養われてくると、無理せずに鳴るようになります。人差し指の力よりは、セーハをしたまま他の指を動かすときの柔軟性が問題と言えるかもしれません。いずれにしても、少し練習を怠るとすぐにつらくなる技術ですので、充分な練習時間がとれない方には大きな問題と思います。ここでご紹介する方法は、必ずしもセーハだけを目的とはしていませんが、左手全体の力をつける上で有効と思われます。
<条件>
通勤、通学時に手提げカバンを持つ。重さは2キロ前後のものが使いやすいのではないかと思いますが、重過ぎなければ何でもかまいません。(軽い場合は、本を入れるなどして調節してください)
グリップ(握り)が極端に薄いものは適しません。1~2cmの厚みが必要です。
方法:下の写真のように、本を持つような気持ちで、親指とその他の4本の指をそろえて伸ばします。この形のまま、手提げカバンのグリップを持つのです。親指は人差し指か中指の裏側の位置が適当です。5本すべての指で支えてください。はじめは、深く(指のつけ根に近い位置で)持たないと支えきれないかもしれません。すべての指を伸ばしたまま、カバンを落とさないように、5秒くらいから始め、次第に30秒くらいまで持続できるようにします。もちろん無理をせず、少しつらくなったところですぐに普通の握り方にもどしてください。電車の中やホームで待つときが練習しやすいと思います。歩きながらでもできますが、落とさないように。慣れてきたら負荷をかけるために、グリップの位置を少しずつ指先の方にずらしてください。無理をしないことはこれまでの練習と変わりません。指の先端で支えようとするのは落下しやすいだけでなく、負担が大きすぎますから、避けてください。また、セーハの練習といっても、人差し指と親指だけで支えることは、負荷が大きすぎますのでやらないでください。
この練習は1日に2~3回やるだけで効果が見られると思います。
右手で同じ練習をしてみると、意外に面白い変化が見られるのではないかと思います。
休憩。。。「どれを、どのくらいやったらいいの?」「どのように組み合わせたら効果的?」
人によって効果の出方が異なりますので難しいのですが、どの練習にも必ず、はじめと終わりにグー・パーを入れてください。手先が冷たくなる冬は特にきちんとやってください。故障を避けたいと思ったら、手を大切にしなくてはいけません。ギターを持たない練習をいろいろ試みると、ギターで練習する時間が短くて済み、肩こりや腰痛の予防も期待できると思います。
究極の柔軟
(ただし危険度大かも?)
人によっては、これだけで充分かもしれません。柔軟と強化の両方の効果が得られます。けして無理な練習ではないのですが、やり方によっては指をこわす危険度大ですから、そのつもりで試みてください。はじめは指の筋が引っ張られる感じがすると思います。そっといたわる様に行ってください。これまで同様、できるだけ力を抜き、ゆっくり始めてください。この練習は、滑らかにできるようになるまでに3週間以上かかると思います。急にやろうとしないで、1月くらいは様子を見ながら慎重におやりください。
指2本ずつを交互に動かし、それ以外の指の影響をできるだけ小さくする練習と考えてください。とくに中指の動きに注目していただきたいと思います。慣れるにつれて、薬指からの独立性が高まるはずです。もちろんヒトの手は、指が完全に独立して動くようには出来ていないのですから、効果を焦ってはいけません。くどいようですが指をこわしたら何の意味もないのです。違和感を感じたら、すぐに休んでください。何人かにやってもらいましたが、一様に「痛いよ」という反応でした。そっとやるのがコツです。初めは動きも小さくしてください。2本ずつ連続的に早く繰り返せるようになったら完成です。写真は左手のみですが、右手で動きを小さくすると早いスケールで効果が出るはずです。
写真の動きは大きくなっていますが、小さな動きでも効果があります。連続してやることが難しいのです。
ポイント:それぞれの動きが等間隔となるように練習してください。そして、指を動かす順番を守ること。先に動く指を追いかける順になります。負荷は、写真のようにタオルでもテーブル面でもかまいません。
1.軽く握り、人差し指をはじき出します。
2.続いて中指をはじき出します。このとき、薬指と小指も開いてしまいます。
3.人差し指だけを握ります。
4.そっと中指を握ります。このとき薬指も一緒に動きますが、それでかまいません。無理に独立させようとしないでください。
以上1から4を連続的に等間隔で繰り返します。ここまでが一区切り。
5.同様に中指と薬指の2本で練習します。まず中指をはじき出します。
6.続いて薬指をはじき出します。このとき 小指も一緒に開きます。
7.中指を握ります。薬指は中指と一緒に動きます。あまり薬指を意識しないでください。
8.薬指を握ります。小指は残っています。人差し指と中指は開いていてもかまいません。
以上5から8を連続的に繰り返します。
9.最後に薬指と小指の2本で行います。初めに軽く握ります。
10.薬指をはじき出します。小指は握っていますが、薬指と一緒に動いて開き加減でかまいません。
11.小指を完全にはじき出します。
12.薬指を握り、そのあとに小指を握ります。
以上9から12を連続的に繰り返します。
究極の柔軟-2
当初、前項の練習は、隣り合う指での練習だけに意味があると思っていたのですが、そうでもなさそうです。左手の1-3、1-4、2-4で同様の練習を試みると、バランスが改善されるのがわかります。ゆっくりやるのでは効果があまり感じられないかもしれません。滑らかに連続した動きができるようになってきたら、速度を徐々に上げてください。動きの大きさも、楽になるにつれて大きくしてください。指を動かす順序は必ず守ってください。そうしないと練習の意味が半減してしまいます。どうしてこの順序でなくてはいけないのでしょうか。考えてみてください。
横方向の柔軟
その1の練習と関連していますが、積極的に横方向(指の間を広げる方向)の予備運動を行いたいときに有効です。人によっては、これだけで柔軟が完了する場合もあると思います。これもあまり力を入れることなく、指のバネをきかせる感じで行います。ゆっくりではどうということもない練習ですが、開閉開、開閉開、の繰り返しを行い、だんだん回数と速度を上げ、開閉開閉開閉開の繰り返しが急速にできるようになれば完成です。早いとコントロールしづらいはずです。完全に平面上でやらなくても効果があります。テーブルの上などをこするようにやってもよいのですが、幾分ストレスがあるのではないかと思います。気持ちよくやることも大切で、無理なやり方は効果が得られないだけでなく、故障につながりやすいことを忘れないで下さい。
番外編 当たり前の動き
番外編としてふたつの練習を付け加えます。
その1 テーブル等に左手の甲を上にして軽く置き、1-2、1-3、1-4の順に握ります。右手のim、iaを弾く時と同じように考えてください。テーブルに触れるのは動かしている指だけです。1-4まで行ったら、連続して1-2にもどって繰り返します。ゆっくり始めて次第に速度を上げてください。急速に繰り返そうとすると、順番がわからなくなってしまう速度があります。その手前で繰り返してください。指を握る動きと、指でテーブルを叩く動きは異なりますが、どちらでもかまいません。あまり効果に差はないように思います。力を抜き、なるべく指の力が均等になるようにしてください。初めは指の「重さ」に差があって、ドテドテする感じかもしれませんが、慣れるにつれてムラがなくなり、動きが軽く感じられると思います。さて効果ですが、ギターを持ったとき、スラーに力が乗る感じがしませんか?
その2 次に1-4、1-3、1-2のパターンで同様にやります。
以上は右手でも効果があります。右手は小指まで含めることにより、トレモロや早いアルペジオの安定性向上が期待できます。これらは電車の中でも、昼休みでも、簡単にできます。でも夢中になってしまうと周りの人に「うるさい!」と言われるかもしれませんので、ご注意を。
簡易柔軟プログラム(例)
効果はありそうだけど、面倒くさいな、全部やれないし、第一、忘れちゃうよ、というものぐさな?方のためにプログラムを作ってみました。片手で1分です。両手でも2分ですし、簡単に覚えられます。本当は自分自身に合った工夫をしていただきたいのですが、ひとつのサンプルとして練習前の柔軟用にやってみてください。
各々、8回1セットで2セットとします。8回で1拍おいても続けても、どちらでもかまいません。指は力を抜き、大きめの楽な動きをしてください。あまり小さな動きを意識すると、逆に手が固くなります。
ポイントは無理のない程度に、できるだけ急速にやることです。あくまで練習前の柔軟が目的ですから、困難なパターンは除外してください。すべて行ったとき、1分程度になるはずです。初めは2分かかってもかまいません。他の練習と同様、硬い手を無理に動かしてはいけません。もし指に疲れを感じたら、途中でもすぐに休んでください。
1 | グーパー | 2セット |
2 | 4-3-2-1のはじき出し | 2セット |
3 | 1-2-3-4のはじき出し | 2セット |
4 | 1-2-3-4の握りこみ | 2セット |
5 | 4-3-2-1の握りこみ | 2セット |
6 | 1-3-4の握りこみ | 2セット |
7 | 4-3-1の握りこみ | 2セット |
8 | 2-3-4の握りこみ | 2セット |
9 | 4-3-2の握りこみ | 2セット |
10 | 3-4の握りこみ | 2セット |
11 | 4-3の握りこみ | 2セット |
12 | 手を開いたまま、指を横方向に開閉(「その9」参照) | 2セット |