ゆるめるか否かは、ゆるめる目的によります。
まだ新しいギターの場合、棹の順ぞりを防ぐ目的でゆるめるのであれば、あまり意味がありません。
ギターは、使用しているうちに弦の張力によって棹や表板がわずかに変化し、バランスがとれたところで安定します。
このときすべてのギターが順ぞりするわけではなく、逆ぞりする場合もあります。
その後は適切に保管されていれば、あまり大きな変化を起こすことはありません。
本来の性能に早く到達するには早く安定させ、その状態で弦高等を調整した方がよいと思います。
ギターを弾き込んで最高の状態にしたいと思っているときは、ゆるめる必要はなく、どんどん弾いてやった方がギターのために良いと思います。
言い換えれば、ギターは調弦をしてある状態で、弾くことにより発生する振動に応じてその緊張状態のバランスを取っているとも言えます。
人によっては、表板の緊張が急激に変化することを避けるために、弦の交換を1本ずつ行ったり、弾かないときも常にチューニングしておき、いつも同じ音程(張力)となるように気をつけている人もいます。
いずれにせよ、前述の様に常日頃コンスタントに弾く時は弦を緩めず、長期に渡り弾くことが出来なかったり、旅行等で環境に大きな変化がある場合は、緩めて保管することが良いと思います。
数十年を経た古い楽器の場合は、当然安定した状態となっていますが、使用にあたって寿命を考慮する必要が生じます。
古名器の寿命は一般的に考えられているより長いものですが、実際にそれぞれのギターの寿命がどの位かは誰にもわかりません。
結局、弾かれる方が最高の状態に保つことを優先するならゆるめず、寿命を延ばすことを優先するなら状況に応じてゆるめる、という使い方をすることになります。
長年弾き込んだギターで、弦をゆるめてギターを休ませると,以前の音が回復することもあります。
このときは、ゆるめたまま、数ヶ月そのままにしておきます。また、弦の寿命を延ばすためにゆるめる場合は、目一杯ゆるめたらよいでしょう。
(製作家 尾野 薫)
張りの強い弦と弱い弦では6本合計の張力で5kg位の差があります。
この5kgの差で駒が飛んだり力木が剥がれると言う事は考えにくく、故障は張力が原因のトラブルではなく、木工の精度の問題だと思います。
ですからこの質問の答えとしては、たとえ古い楽器でも健康状態が良い楽器ならば、心配する必要はないということになります。
また、楽器の寿命との相関関係については、一般的な答えを見出すのは難しいと言えます。
なぜならどの時点が楽器の寿命かという事に関しては、人によって考え方が様々ですし、楽器自身にも体力の差があるからです。
概して見た目にもいかにも弱々しそうで、表面板の変形の大きい楽器は、張りの弱い弦でピッチを下げて弾いた方が良いといえますが、それ以外はむしろ音色の好みによって弦を選ぶ方が良いと思います。
(製作家 尾野 薫)
0フレットにある骨棒をナット、駒(ブリッチ)についている骨棒をサドルと言います。
ナットやサドルは音の入り口でその形、高さ、材質、精度などは音色に関係しています。
また雑音の原因となる場合が多くあります。
ナットから出る雑音は弦の通る溝の形が悪い場合が考えられ、弦を外して溝についたよごれを参考にして調整します。
サドルもあまりとがらすと巻き弦がわれて雑音が出ます。弦高調整をすると音色やテンションも変化していきます。
サドルを高くする場合は作り直すかスペーサーを敷きますが材質は硬いほうが音色の変化が少なくて済みます。
ナットも同様ですが開放弦の音色の硬さをとるため柔らかい材質のスペーサーを使う事もあります。多少器用な人なら自分で調整出来ますが、心配な時にはオリジナルはさわらず、新しく作り直すといいでしょう。
(素材はアウラで扱っています)
(製作家 尾野 薫)
フラメンコギターとクラシックギターがはっきり別のカテゴリーとして、製作家が区別するようになったのはそれほど古い事ではありません。
19世紀後半から今世紀の初頭、トーレスからサントス・エルナンデスが活躍した時代には未だフラメンコはカンテ(歌)が中心でしたから、その伴奏やバイレ(踊り)や他のスペインのフォルクローレ(民謡)の伴奏楽器として使われるのが普通でした。
一方クラシックもトーレスを愛奏したターレガによって、ようやくロマン派時代に返り見られなくなったギターが復権を果たした位ですから、クラシックのコンサートギターに対する需要も一部の特権階級に限られたものしかありませんでした。ですから現在ではシープレス(糸杉)を横裏板に用いた木肌が白っぽい感じの楽器がフラメンコというイメージがありますが、当時はむしろ入手しやすく且つギターの特性に合ったものとしてシープレスが一般的に良く使われていたというのが実情と思われます。(もっとも現在ではスペイン産のシープレスは伐採禁止となり良材は大変貴重なものとなっています。)
ところが結果として質量の軽いシープレスは、立ち上がりや歯切れの良いリズムの分離の良さなど、フラメンコ的な音色を追求する場合に大変適した材料である為、段々とフラメンコ用に特定して使われる様になって来たのです。
その後、フラメンコもギターの独奏というジャンルが確立し、更には他の楽器との合わせるコンサート形式が確立するにつれ、切れの良さだけでは無く音の奥行きを求めてシープレスだけではなくクラシックに使われるローズウッドを用いた物も使用される様になって来ました。
一般に前者をブランカ(白)、後者をネグラ(黒)或いは両用と呼んでいます。
現在では表面板の厚さや力木の配置、ボディーの厚さなどをクラシックと別の仕様で製作する場合が多く見られます。又、表板にはラスゲアード(弦を掻き鳴らす)奏法やゴルペ(指で叩いてリズムを刻む)奏法で傷が付かない様、セルロイド等で出来たゴルペ板が張ってあるのが一つの特徴と言えます。(嘗ては楓材のゴルペ板が用いられていました。)
また、金属糸巻きでは無く木ペグを使用したものも見られます。
故マヌエル・カーノ氏は良く一本のギターで前半クラシック、後半フラメンコのプログラムを組んでいました。
彼の名言に次のような台詞があります。 <クラシック音楽とフラメンコ音楽があるのではなく、良い音楽と悪い音楽がある。クラシックギターとフラメンコギターがあるのではなく、良いギターと悪いギターがある。>
(製作家 尾野 薫)
ギターにとっては弦を張って張力をかけた状態が普通であって、弦の新旧による張力の差は僅かですから新しい弦に交換しても結果は同じです。
ただ、一般的に言えることは長い間弾かずに調弦した状態でケースに保管することは避けたほうが無難です。
ケース内にしまったままにすると湿度や温度の好ましくない状態が長時間に渡って続くことがあり、ギターに無理がかかることがあります。
さて、弦を長い間使用していると張りが強く感じるのは、弦が伸びなくなってくるためです。
新しい弦は調弦したそばから音程が下がってきますが、それは弦が伸びているからです。伸びるということは、言いかえれば、弦には縮もうとする力があるということで、そのエネルギーは弦の振動を助けます。
また、弦のしなやかさは高次倍音の小さな波を形作りやすく、反対に伸びきってしまった弦は倍音が少なくなって来ます。
この変化は低音弦の方が顕著で、もともと倍音の少ない高音弦ではそれ程目立ちません。
むしろ高音弦ではフレットにあたって弦がつぶれる事による音程の狂いや不良振動の方が先に問題になります。
いずれにせよ音色の変化を聞き、気に入らなくなった時が変え時だと思います。
(製作家 尾野 薫)
練習量によって一概には言えませんが、張り替えてから1週間程度で低音弦に劣化が現れます。
低音弦の場合、交換したばかりで弦がどんどん伸びている間は、金属的な歯切れの良い音がしますが、伸びが安定すると共に、次第に華やかさが失われていきます。
その分、落ち着いた音質になる場合もあります。その後、弾き続けていると次第に音の伸びがなくなり、音量が落ちてきて、最後は太鼓を叩いているような、味気ない音になってしまいます。
また、フレットに当たる部分がつぶれてくると振動にムラが生じ、音程が悪くなります。これは高音弦についても言えることです。
高音弦は低音弦ほど音質に変化を生じませんが、やはり伸びきると次第に音程が悪くなり、音質も暗くなって音の伸びが失われます。(もっとも、高音弦で音程の良いものにあたるのはなかなか難しく、張り替えた時すでに問題のある場合もしばしば見られます。ばらつきの程度はメーカーや、ロットによって異なります。
しかし、音程だけに気を取られないで、気に入った音質を求めて高音弦を色々と張り替えてみるのも、なかなか楽しいものです。「弦はどれを選んだらよいか」を参考にしてみて下さい。)
プロの中には弦を数日で張り替える人もいますが、経済性も考えると、1ヶ月位で張り替えるのが現実的なところではないでしょうか。必ずしも6本まとめて張り替える必要はなく、低音弦3本だけを頻繁に交換される方も多いようです。
フラメンコ奏法では、右手の爪や指で表面板を叩く打撃音がリズムの中に多用され、これがフラメンコ特有の雰囲気を醸しだします。
このため、表面板の傷を防ぐために、フラメンコギターにはセルロイドのゴルペ板が貼られています。
クラシックギターを使用する場合は、粘着性のゴルペ板が売られていますので、これを貼れば一応フラメンコギターとして使用できるようになります。しかし、貼ると多少なりとも音色が変化するのは避けられません。
量産品では色々な意味で問題ないのですが、手工の高級なギターでしたら避けた方が無難かもしれません。
なお、着脱式の素材も販売されていますが、これは誤って表面板を触った時に傷がつかない為のプロテクターであり、フラメンコのゴルペ板としては不適当です。強く叩くと表面板に食いこんでしまいます。
また、フラメンコギターは横板と裏板の材料がクラシックギターとは異なり、乾いた、はじけるような響きをもつ傾向があります。好みにもよりますが、クラシックギターを使うと、場合によっては音が重厚になりすぎる事もあります。
フラメンコでも落ち着いた響きを求める方には、クラシックギターとフラメンコギターの両方の特徴を生かすように設計された、両用のギターも製作されています。
製作家は、トーレスモデル、サントスモデル、フレタモデルなど、名器をそのままフルコピーしたり、多少手を加えたりして製作することがあります。
それは、高価で手に入り難い名器に近い音色の楽器を、ある程度リーズナブルな価格で手に入れたいという要求が常に市場にあるからなのですが、また同時に製作家にとっても隠されたノウハウを研究する上で、名器のモデルを作るのは大きな意義があります。
しかし結果として、オリジナルとはかなり違う音色の楽器になる場合が多々あります。
それは同一条件の素材というものがそもそも存在しないことに加えて、経年変化に伴う音色の変化という解明し難い問題が含まれているためで、ある意味では当然のこととも言えます。
しかし、モデルのタイプに関わらず、コピーを製作した製作家の特徴に大きな変化が見られない場合があります。
それはギターの音が、設計だけでは決まらないからです。
コピーの製作にあたっては、まず第一に製作の課程が当時行っていた様な伝統工法である必要があります。
次に設計をフルコピーすること。更に製作家は作りながら自分の音のイメージに合わせていろいろな調整をしなければなりません。
ですから課程に手抜きがあったり、トーレスならトーレスが持っていたのと同じ音のイメージを製作家がもっていないと、良い結果は得られません。木工技術のみ優れていても名器を製作できるわけではないのです。
(製作家 尾野 薫)
左利き用のギターに関する質問はかなり多く頂きますし、手工品のご注文、普及品の左利き用への変更依頼もいただいております。
まず普及品の場合、左利き仕様のものは販売されていませんので、通常の楽器の調整変更をする事になります。
変更方法は単純に考えれば左利き用に弦の張り方の順番を逆にすれば良いのですが、高音弦と低音弦では太さも振動する時の振幅も違いますから、弦の両端の支えであるナットとサドルを直さなくてはなりません。
最も簡単な方法はサドルの骨板をひっくり返して差し込んで使用する方法ですが、厳密にはこれでは微妙な調整が取れません。
最低限、専門家が調整をし直すか(2000円程度)、出来ればナットとブリッジを新たに作る(1万円程度)方が良いと思います。 また、ギターの内部構造は最も鳴りやすい様な設計にしてある為、左右対称にはなっていません。
このため、弦の変更により楽器が壊れるというような強度的な心配はないものの、多少の音質の劣化は起きてしまいます。
しかし耳ではっきり聞き分けられるほど顕著ではありませんから、量産品に関してはそれ程心配する必要はありません。
ギターの中には、指板に傾斜をもたせて製作されたものもあり、これをそのまま左利き用に持ちかえると右手が弾きづらくなることがあります。
これを調整するには指板を削りなおしたり、貼りなおすという大手術が必要ですので、左利き用として用いるのは現実的ではないと思います。 左利きの手工品はオーダーメイドで製作可能ですのでお問い合わせ下さい。
3弦は他の弦に比較して太いために鳴りにくい傾向があります。
このため、とくに量産楽器ではぼけた音になる場合がしばしば見られます。また3弦は音程に関しても構造的に避けられない問題をかかえています。こうした欠点をある程度カバーする方法としては、サバレスのアリアンスまたはハナバッハのカーボン弦を3弦のみ使うことが考えられます。
これらの弦は細めに作られていて、鳴りやすい特徴があります。試されてはいかがでしょうか。
また、プロアルテのコンポジット弦はこの欠点をカバーする為に3弦のみ特殊素材を使っています。ただし、これらの弦は楽器と弦との相性もかなりありますので、一概にどれが良いとは言い切れません。
弦によっては太いものでも意外によく鳴る組合せもあると思われます。
また、各弦の音色の微妙な変化がギターの面白みでもありますから、性能だけ改善されても他弦との音色のバランスが崩れると演奏して違和感を憶えることになりかねません。
アウラ・ギターサロンの「弦はどれを選んだらよいか」を参考になさってください。
10弦ギターは、ご承知のようにナルシソ・イエペスによって考案されました。
元々イエペスは共鳴音に含まれる倍音構造が各音によって異なるのを嫌い、これを均一にすることを目的として多弦ギターを開発したと言われています。
ですからうまくコントロール出来れば、むしろ6弦より豊かな響きが得られる可能性があります。
しかし消音のテクニックが不足すると、余計な共鳴音がいつまでも残ってしまう危険が多いのも事実です。
多弦ギターに共通することですが、弦が1本増えるだけで楽器をもった印象はがらりと変わります。
とくに慣れないうちは、単に6弦に1本増えたとか2本増えたとかいうレベルではなく、ギター以外の別の楽器に変えたような印象があると思います。
海外の著名なギタリストの中で、イエペス以外に10弦ギターを使用している人は、ほとんど見あたりません。
それでもセルシェルが使用する11弦より圧倒的多数の愛好家が使用しているのも事実です。
できれば何度か手にとり、ご自分でこれらの問題点を確認された上でお決めになるのがよいと思います。
決まりはありません。
低音弦の方は、柔らかい方をブリッジの所へ巻きつけるのが普通と考えられていますが、こうすると巻き線が乱れたり切れたりするので、我々は硬い方を巻きつけています。
製造過程から見ても、線の巻き始めは安定していないので音程の精度が出にくく、しっかり巻かれた硬い方をブリッジ側にすべきだとする人もいます。
高音弦の方はどちらでも構いませんが、我々は沢山弦を替えるので、色のついている方をブリッジの方へ巻きつけ、何を張っているのかわかるようにしています。
1弦のように細い弦は、ブリッジにしっかり固定しにくく、場合によっては調弦するうちに少しずつすべって、ついにははずれてしまうことがあります。
抜ける瞬間、弦が激しく暴れるため、表面板に大きなキズを残すこともめずらしくありません。
大切にしている高級ギターでこのようなことが起こると、泣くに泣けない悲しい気持ちになります。
こうしたことを避ける方法はいくつかありますが、簡単にできる方法としては、弦の先端を一回結んでコブを作ってから通常の方法で止めれば、ほぼ100%避けられます。
あるいは弦の先端をライターなどであぶって溶かし、丸い玉を作ってから止めると、同様の効果でブリッジまわりの見た目もきれいです。
ただし、玉の作り方によっては強度が充分得られない(取れてしまう)こともありますので、何度か試してみるといいでしょう。
ヘッドでは、指板側からギヤの穴に通し、弦の先を穴の入口付近で弦に1,2回巻きつけます。先を軽く引っぱりながらギヤを巻き上げれば、簡単にしっかり固定できます。
10弦ギターの調律には、弾いて鳴らすことよりも倍音を得ることを目的とした調律と、弾くことを目的としたリュート式があります。 倍音を豊かにする為の調律はイエペスが考案・使用していたため、イエペス式のモダンチューニングと呼ばれています。 イエペス式の場合、7弦のみ専用弦でドに合わせます。8~10弦は普通の弦で8弦目は5弦を使いシのフラット、9弦目も5弦を使いソのシャープ、10弦目は6弦を使いファのシャープとします。 リュート式のバロックチューニングの場合は、レ、ド、シ、ラと順番にダイアトニックに下がっていく調弦となります。 販売されている弦は下記となります。
ハナバッハ(ハイテンション) 7弦 ¥1080 8弦 ¥1188 9弦 ¥1296 10弦 ¥1404
指が乾燥しがちな方は、この雑音に悩まされることがあります。
湿度によって雑音の出方は異なり、夏場は汗で指が湿りがちですから、雑音はそれほど気にならないのですが、冬場はかさかさになるため、大きくなります。
演奏前に一時的に指の状態を改善する目的で、天花粉(シッカロール)を弦と指先につける人もいます。
ただしこの方法を使うと弦の傷みが早い上、低音の伸びが悪くなりがちです。
レコーディング用の研磨弦も発売されていますが、これもコストがかかる上、音質的にはあまり好ましくないようです。
奏法に関しては、低音側の押弦している指を移動時に脱力してからポジション移動する事により、テクニックのある人だと殆ど雑音を出さずに演奏出来ます。
近年カルレバーロというギタリストがポジションの移動テクニックを系統的に練習するメソッドを確立し、その影響を受けた人は雑音が少ない演奏を心がけている様です。
一昔前のセゴビア等の巨匠の演奏は、録音でも結構移動時の雑音が聞こえます。
チェロで言われる「松ヤニの飛び散る音」と同様、その楽器の特性、楽音のうちと考えている方もいます。
膠の接着強度だけを見ると日常生活の温度や湿度では劣化は殆ど発生しないと言えます。
例えば湿度のみを取り出せば90パーセントを越えると溶け始めますが、現実的には接着層がその湿度を越える事はかなり劣悪な環境下に長期間置かなければ起きえません。
従って特別過酷な状態でも無いのに駒が飛ぶ様な場合は何らかの事情で接着不良があったか、長期間に渡っての木材の伸縮の影響で外れたと考えられます。
前者の場合は膠を煮込む時に温度が60℃を越え加水分解したり、雑菌が混入して劣化が生じた事によって起こり、後者は駒材と表板の収縮度の差から部分的な浮きが生じ、時間と共に広がる事によって起きます。
また、後者の木材の動きによる原因で起こる故障は駒だけで無く、力木剥がれもあります。
これは力木は長さ方向に伸縮しないのに対し表板や裏板は幅方向に伸縮が起こる為に発生すると考えられます。
何れにせよ、膠は楽器自体が湿気の影響で伸び縮みした際に一緒に多少伸縮する可能性を考えると、比較的楽器に無理な負担がかからない接着剤と言えます。湿度管理は50から60パーセントの範囲内にしておく事が望ましいと言えます。
尾野 薫
現在、何種類かのサイレントギターが市販されています。
サイレントギターというのは、ボディ、つまり共鳴胴がなく、エレキギターのようにピックアップで弦の振動をひろい、主としてヘッドホンを使用して音を聴きます。
ヘッドホンジャックにアンプをつなげば、まさにエレキギターとなります。
ボディに当たる部分は振動を抑え、軽量化するためにアルミなどで作られています。目的はやはり夜中や出先で練習することで、そのためには充分な仕様になっていると言えます。
ネックやフレットの仕上げもきちんとされているのが普通で、高級品では外観もひとつの楽器として通用するくらい立派です。
音については、感じ方にもよりますので一概には言えませんが、練習用と割り切れば充分と思います。
ヘッドホンを使わなくてもある程度の練習目的、たとえばスケールやスラーなどの基礎練習には充分です。
弦だけの音を聴いて、普段との違いに驚かれる方もあると思います。慣れてしまうと意外に調子がよくて、はまってしまうかもしれません。
図面的に言うならば10万円以下の量産ギターは手工品のそれに比べ多少簡易な形になっていることが多いと思います。
但し一流の製作家でも簡易な設計で名器を生み出す事も多く有ります。
従って設計によって名器かどうかを判別する事は出来ないと言えます。
重さは材料の違いにより微妙に変わって行きますが、むしろ木の厚みをどう取るかや、棹の仕込み方によって全体の重さが変わっていきます。
ですから共鳴箱内部の構造によって重量が著しく変化することはあまりありません。
(田邊 雅啓)