クラシックギター、フラメンコギターの弦は、現在様々な種類の弦が各メーカーにより開発、発売されています。
それらの特徴をそれぞれ明確にお伝えできれば良いのですが、ギターという楽器の音色が様々なファクターによって成り立っていることを考えると、その特徴を明確に言葉にするという作業自体がとても難しいことだと言わざるを得ません。
しかし、
いくつかのキーワードをもとにして、それら多様な種類の弦をある程度カテゴライズできるのではないかと考えました。もちろん前述した通り、ギターの音色は「弦」だけで決まるわけではなく、「カテゴリー」はあくまで参考程度にしかならないかもしれません。
その点はご承知おきください。
今回は
「チタニウム弦」
「フロロカーボン弦」
について特に考えてみたいと思います。
ここでひとつ、話しは少し飛び、「金属」ついて。
金属を合金、つまり混ぜ物を加えると一般的に硬度が増すと言われています。
この「混ぜ物をすると硬度が増す」ということが、音色を考える際に非常に役立ちます。
「チタニウム弦」と「フロロカーボン弦」の音色についてお話しするにあたり、比較対象としてまずはやはり「ナイロン弦」の特徴から。
現在クラシックギター弦の素材として主流の「ナイロン」は、1935年にアメリカの科学者ウォーレス・カロザースが開発した「ポリアミド系合成樹脂」が正式な名称です。
それまで、ギターの弦として主流だった「ガット(主に羊の腸)」や「絹」に比べ、素材の均一性と強度が飛躍的に増し、また低コストで大量生産できたことも大きなメリットとなり、一気に主要材としてシェアを拡げます。ナイロン弦を使用することによりピッチが安定し、ガット弦のように簡単には切れない耐久性を獲得できたのです。
ギターの弦としては画期的な素材となりましたが、一般的素材としてのナイロンはまだまだ問題点もありました。
吸水性があるということ
伸縮率が高いということ
亀裂などの外傷がある場合強度が極端に落ちること
など。
つまり史上初の人口合成繊維として登場したナイロンは、画期的な素材でありながらその「表面硬度」がまだまだ低かったのです。それゆえ一般素材としてのナイロンのその後開発は、「硬度」と「強度」を増すということに指向してゆきます。
しかし、この当初の問題点こそナイロン弦の音色を考えてみると、大きな「特徴」として働いたように思います。
木のぬくもりを感じさせるような落ち着いた音色。人工的ではない音色。
人工物に違いないナイロン弦が、人工的でない音色を人に感じさせるのは決して完璧な素材ではなかったからとも言えそうです。
(ガット弦を愛用していた当時の人の中で、ナイロン弦の音を「なんて人工的な音だ!」と憤慨した人が居たであろうことは想像に難くありませんが、今現在一般的に使われているナイロン弦をひとつの基準として考えてみたいと思います。)
従来ナイロン弦に不純物を混合すると音が華やかになることは良く知られていて、ラベラをはじめ多くの老舗メーカーが特にフラメンコ用として様々な色の弦を発売して来ました。
(ラベラ社が昔から販売しているフラメンコ用の「黒」「赤」などが特に有名です。)
ここで先ほどの「合金」の話を思い出してください。
おそらく混ぜ物を加えることで、その表面硬度が変化し、その結果音色に変化が起きたのだろうと思います。
つまり合成された素材の表面硬度が増すと「きらびやかな」音がし、表面硬度が落ちればより「落ち着いた」音色に変化していきます。
また、
表面硬度が増せば、弦の張りが増しますので、より音の伸び、「サスティーン」が増すことになります。
例えば、
表面硬度が高い弦として思いつくのは、「金属弦」。まさに「金属的な音」などと表現されますが、表面硬度が増せば増すほど、音の組成のなかで「高音質」がより強調され持続的に振動するようになりサスティーンが得られます。
クラシックギター、フラメンコギターの弦は、「ナイロン弦」と「ナイロン弦に何かを加えた弦」「素材の異なる弦」に大別されますので、その歴史は素材の「表面硬度」の変化と置き換えても言い過ぎではないと思います。
そう、というわけで今回のキーワードは「表面硬度」です。
表面硬度を考えることである程度弦をカテゴライズすることができます。
もちろんそれぞれのメーカーが趣向を凝らしているのでカテゴリー内でも様々な個性をお楽しみ頂ければと思います。
チタニウム弦もナイロンと総称されるポリアミド系の合成物ですがその組成は実は不明です。
従来のナイロン弦に何らかの混成物を加え表面硬度を強化しています。
(正確に言えばナイロン弦でなないのですが、ギターの世界では、ナイロンに混ぜ物を加えたタイプの弦も「ナイロン」弦の区分に分類されます。)
チタニウム弦は、元々南米のメーカーが開発しパテントをとったものと巷では言われていますが、真偽は分かりません。
なお、その名の由来は独特のグレーがかったパープルの色から命名されたものでチタンを含んでいる訳ではありません。(低音巻弦にチタン素材を使ったものはある様です。)
市場にいち早く製品を紹介したメーカーとしてはスペインのロイヤルクラシックが良く知られていて現在でも多くの愛用者がいますが、その後ハナバッハやプロアルテ等の良く知られたメーカーも後発ながら販売を開始しました。
後述するフロロカーボン弦と比較して弦自体が太いので、より「ナイロン」に近い硬度と強度の素材で弦を張った時、フロロカーボンよりは、弦の伸びが安定するまでの時間が長く掛かります。
「ナイロン」より硬度と強度は増したが、「ナイロン」に近い素材といえそうです。
すこし華やかな音を求めているユーザーには是非試して頂きたいと思います。
アウラオンラインショップで購入できるチタニウム弦
フロロカーボン弦という名前を聞いて、カーボン系の素材と思われがちですが、フロロカーボンの正式名称は、ポリフッ化ビニリデンといいフッ素重合体のひとつです。
先ほど書きましたナイロンの欠点、吸水性、伸縮率が高く、亀裂などの外傷がある場合強度が極端に落ちること
これらの点を改善している点が高く評価されました。
それはまさに「硬度」と「強度」が高い素材ということになり、つまり耐久性があり、音が安定するまでの時間が短縮され、きらびやかな音がする。
ということになります。
というわけで今回ご紹介した「ナイロン弦」「チタニウム」「フロロカーボン弦」の3種類のなかで、「フロロカーボン弦」が最も表面硬度が高いと言えます。
フロロカーボンという素材が、ギター以外の世界で最も使用されているのが実は「釣り」の世界。
ナイロン釣り糸の欠点をカバーするように登場し、即座に商品化されました。釣り糸としてのフロロカーボンの登場は昭和40年後半頃になります。その後にギター弦としてフロロカーボンが採用されましたので、これを考案したひとはギターと釣りをこよなく愛する人だったかもしれません。
アウラオンラインショップで購入できるカーボン弦
その評価は使用者の好みやタッチも加味すると様々となるのは当然ですが、一般的には音の伸び、遠達性を考えたり、音に硬質感を求める場合
カーボン>ポリアミド新素材>ナイロン となり、音色に甘美さや木質感を求めると逆順になりがちであると言えます。
また一般的にギターは、3弦が少しぼけた音色となりがちです。
そのため反応の鈍い普及タイプの欠点の緩和や、演奏時のレスポンスの違和感をなるべく避けるため、3弦だけカーボン弦を使う場合もあり、メーカーによってはセット弦の3弦だけカーボンを組み合わせている場合もあります。
音色の好みというのは、味覚に似ていて、個人の「好み」に大きく作用される側面があります。
また、その時の情況、その時の時代性などにも影響され「断定」することを極力避けなければいけないなとご紹介する立場として自戒を込めて思います。
弦を選択する際のひとつの参考程度になれば幸いで御座います。
また、ギターの音色は、演奏者、楽器の性能、楽器の状態、弦に影響されますので、何かお困りのこと御座いましたらお気軽にご相談頂ければと思います。