フラメンコギターは元来、スペイン・アンダルシア地方で育まれたロマ(西語でヒターノ)の芸能であるフラメンコの踊りやカンテと呼ばれる唄の伴奏楽器として用いられ発展してきましたが、徐々にギターそのものを主とした「ソロギター」という演奏形態が発達しひとつのジャンルとして確立しました。
フラメンコギターの楽器としての作りは基本的にはクラシックギターと同じですが、見掛け上の大きな違いは、サウンドホール上下にゴルペ板と呼ばれるプラスチック製の板が貼ってあることです。フラメンコギターの演奏にはゴルペと呼ばれるボディを叩く奏法や、ラスゲアードと呼ばれる弦をかき鳴らす奏法があるため、このゴルペ板によってギターの表面板を保護しています。また横裏板には主にスペイン原産でもあり、歯切れの良さや、音の立ち上がりが早いとされているシープレス(糸杉)等の白系の木材が今日まで伝統的に使用されてきているのも特徴のひとつです。
インド北西部が発祥の地といわれるアーリア系のロマ民族(ヒターノ)が、西へと移動を始め、スペイン南部のアンダルシア地方に辿り着いたのは15世紀中頃。
当時イスラム・アラブの勢力下にあると同時にセファルディと呼ばれるユダヤ民族が共存していたこの地で育まれた濃厚で豊饒なアンダルシア地方の音楽と、ロマ達が長い移動の道中で影響を受けながら持ち込んだ音楽が結びついたものが、フラメンコの原型と言われており、フラメンコに西洋的かつ東洋的な香りが色濃く感じられる背景はここにあるとも考えられています。
フラメンコと言うと踊りのイメージが強いところですが、フラメンコはカンテと呼ばれる唄から発祥しました。
まず、ロマ(ヒターノ)の叫びのような唄が生まれ、やがてはそこにギターが伴奏楽器として寄り添う役割を持つようになり、踊りと共に彼らの生活の中から長い時間をかけてゆっくりと発展することになります。
1900年前半になると、それまで伴奏楽器だったフラメンコギターが「ソロギター」としてクラシックギターのように一人で弾く演奏形態が発展し始めるわけですが、そこに大きく貢献したのは「ラモン・モントージャ」というギタリストであったと言われており、その作法が「ニーニョ・リカルド」「サビーカス」といった次世代の巨匠を生み出し、やがては フラメンコギターの世界のみならずジャンルを超えて世界に影響を与えることになった「パコ・デ・ルシア」へと引き継がれることになり、現代のフラメンコギターシーンへと繋がっていきます。
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フラメンコギターは元々踊りやカンテ(唄)の伴奏で使用されている事が多いためその声との調和性と共に、リズムの歯切れの良さ、そしてスペインの空気のような乾いた音質が特徴になります。
特にフラメンコの踊りではサパテアードと呼ばれる靴音をパーカッションの様に細かく鳴らす所作があることから、その伴奏ギターとして歯切れの良さや立ち上がりの速さが求められることも背景のひとつです。
しかしながら フラメンコギターが「独奏楽器」として認知され、大きなコンサートホールなどの舞台に上がり始めるころから より深い響き、そして豊かな音量が求められるようになり、横裏板にローズ系(黒系)の材質の板を使用したギターも積極的に使用されるようになりました。本場スペインでは前述の横裏板がシープレスのものを白ギター、ローズ系を黒ギターと呼ばれており、立ち上がりの「白」は伴奏用、響きの「黒」はソロ用と言われていた時代もありましたが、楽器の進化によりその垣根も変化してきています。
かのパコ・デ・ルシアもデビューソロアルバム「天才」では白ギターでレコーディングしていますが、その後は「黒ギター」をメインに使用しています。共に個性があるものですので、自分自身と音の相性を探りながら、弾く事はもちろん、聞き比べするのも楽しみのひとつです
詳しくは<ギター選びのヒント>をご参照ください。
弦はクラシックギターと同じくナイロン弦を使用したものが多く、各メーカーにより「張力のバランス」等で「フラメンコ用」としてラインナップしております。
また,高音弦は倍音を増やして切れ味や色彩感を強調するため添加物を加えた色が入った弦もあるのも特徴です。
フラメンコ用の弦としては「ルシェール」や「ハナバッハ」 サバレスから発売されている「トマティート」、ノブロックから発売された「ルナフラメンカ」も人気があります。
また「ラベラ」の様にブラックナイロン弦や、本場スペインの「ロイヤル・クラシック」の様に、その他カーボン弦等ラインナップが複数用意され、使用目的に応じたキレの良い音を出す弦も人気があります。
クラシック用の弦でも音やギターとの相性がよければ使用にまったく問題はありません。それぞれに個性があり、自分のギターとの相性がよい弦を見つけることも楽しみのひとつです。
弦の選定にあたっては<弦はどれを選んだら良いか>のコーナーをご参照ください
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フラメンコ音楽には「ソレア」「アレグリアス」「ブレリアス」等の「曲種」「形式」と呼ばれるもので分類されており、それぞれにフラメンコ特有のキーとリズムが対応しています。
フラメンコのリズム単位は「小節」ではなく「コンパス」と呼ばれ、主に2拍子系、3拍子系、12拍子系、リブレ(自由リズム)等があります。
また「ミの旋法」と呼ばれる、開放弦を効果的に交える音使いも特徴的で、それらが有機的に組合わせされていくことで独特な空気感溢れる音楽を生み出します。古典期から現代へと時代が進むに従って和音(コード)の使い方も変化し、時代の流れと共に今も発展を続けています。
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ラモン・モントージャ(1880~1949)
優れた伴奏者であったと共に、フラメンコの各種曲種、形式、そして技術を再構築し「独奏楽器としてのフラメンコギター」の発展に大きく貢献した重要なギタリストの一人です。
ニーニョ・リカルド(1904~1972)
ラモン・モントーヤ同様優れた伴奏者であったと共に、ギターソロにも独創性を発揮し、ひとつの流儀を構築した重要なギタリストの一人です。彼の創作する魅惑的なファルセータ(ギターフレーズ)とその軽快ながらも重みの宿る深いフラメンコの音は後世に大きな影響を与える事になりました
サビーカス(1912~1990)
名人芸と呼ばれるに相応しい驚異的な技術と音の粒立ち、そして多彩な音色に彩られた演奏で知られるギタリストですが、同時に新たなギター芸術の世界を打ち立てることにより、リカルドと異なる流儀を生み出しフラメンコ界に大きな足跡を残しました。
パコ・デ・ルシア(1947~2014)
フラメンコ史を語る時に「パコの前の時代と後の時代」と言わせしめる程の圧倒的な影響力を及ぼし、また音楽ジャンルの枠を超えて世界的に活躍した最も知名度の高いフラメンコギタリストです。10代後半に発表したソロアルバム「天才」で確かなリズムに支えられた完璧なテクニックと驚異的な速度で耳目を集めましたが、その後徐々に伝統的なフラメンコギターの価値観の枠を越えた試みを始め、新しいスタイルを確立して行きます。しかし彼の音楽の根源にあるものは決して失われることのない「フラメンコの在り様」であり、そして今もギタリストのみならず、踊り手や歌い手含む次世代のフラメンコアーティストに大きな影響を与え続けています。
マノロ・サンルーカル(1943~)
本場スペインではパコと並び最も敬意を払われているギタリストの一人であると共に、後進の育成にも力を入れています。ビセンテ・アミーゴやラファエル・リケーニ他現在活躍する多くのギタリストの師としても有名であり「フラメンコギター界のマエストロ」的な存在です。
フラメンコギターを弾いてみたい、学んでみたい方にとって、様々な情報の発達により独習もひとつの手法かもしれませんが、その独特の技術、奏法やコンパス(リズム)を習得,体得するには、独習ではなかなか難しい面があるのも事実で、またアプローチの段階で思わぬ癖がついてしまう場合もあり、フラメンコ特有のリズムやポイントを見落としたまま進んでいくことで逆に遠回りになってしまう場合もあります。
またフラメンコギターの代表的な技術であるラスゲアード(かき鳴らし)奏法等も様々な指使いのバリエーションやニュアンス、そして学び方が存在します。
アウラ音楽院では、(スペインへの留学経験等、経験豊富な講師による)個人レッスンを中心とした担任制で基礎から一歩一歩、段階的にギターを学んでいきます。
無料体験レッスンも実施していますので、お気軽にお問合せください。
フラメンコギターは伴奏楽器として「踊り」や「歌」と共にコミュニケーションを通じて楽しめること、そして自分自身一人でも「ソロ楽器」として親しむことも出来るので楽しみ方の選択に幅があることも魅力のひとつかもしれません。
最近では、「フラメンコギターを弾く楽しみ」と並行して、フラメンコギターの代表技術でもる「ラスゲアード」というかき鳴らし奏法を習得したい、フラメンコのコンパスと呼ばれる「リズム」を重点強化したい、「フラメンコの和音の使い方や考え方を勉強して自分の音楽にフィードバックしたい」等の、個別専門的なリクエストの声と共に「フラメンコを学ぶことで別の何かに生かしたい」という受講生の方も増えているようです。
また少し掘り下げてフラメンコがスペインの生活の所作から発生したものであることに視点を向けると、スペインの歴史や言語、文化的な背景に興味を深めたり、あるいはロマ族の歴史やその他の国の「世界の民族音楽」にまで関心が生まれるなど、今まで知らなかった世界への扉を広げていくその姿は、まるで旅をしているかのようにも思えてきます。
フラメンコギターを学ぶには様々なアプローチがありますが、重要な要素として、まずはフラメンコギターを弾くためのテクニカと呼ばれる「基礎技術」そしてフラメンコの最も根幹となるコンパスと呼ばれる「リズム」、更に、もう一歩深めていきたい方にはフラメンコのエッセンスの根源でもあるカンテと呼ばれる「歌」の聴き方、これらの3つの柱の組み合わせを元に段階的に一歩一歩進めていくことをお勧めします。
一見華やかに見えるフラメンコギターですが地道な一歩の積み重ねで上達につながります。もしどこかでフラメンコギターに興味を持ったなら、その出逢いと縁を大切にしてぜひ一歩を踏み出してみてください。
生活の中に「ギター」や「音楽」があることで日常に新たな彩が加わってくれるはずです!