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ギターにはいくつかの種類がありますが、ここでは電気を使用するものは除いてお話しすることにします。
弾く音楽の目的から分類すると、概ね、クラシックギター、フラメンコギター、アコースティックギターの3種類に分けられます。 しかし、どの音楽にどのギターを使わなくてはならないと決まっているわけではありません。音の好みによって、違う種類のギターを使う場合もあります。
アコースティックギターはスチール弦を使用し、通常はピックというセルロイド等でできた小片で弾かれます。歌の伴奏に使われることが多く、独奏に使われることはほとんどありません。
クラシックギターとフラメンコギターには、ナイロン弦を使用します。
ナイロン弦といっても、低音弦の3本には金属線が巻き付けてあるため、見かけは金属弦のように見えます。 クラシックギターとフラメンコギターの音の違いは、使う材料、設計によって現れます。
クラシックギターでは、しっかりした、よくのびる音に設計する傾向があり、フラメンコギターでは歯切れのよい音に設計する傾向があります。
見かけの違いとしては、フラメンコギターの表面板にはゴルペ板というセルロイドの板が貼ってあり、フラメンコ奏法特有の爪による打撃の傷から守るようにできています。 クラシックギターの裏板と側板はローズウッドという黒っぽい色の木を使用するのが普通ですが、フラメンコギターにはシープレスという白くて軽い木を使います。
また、フラメンコギターの弦は、指板に接近して調整されており、強く弾いたときに指板にぶつかってフラメンコ独特の響きを生むことになります。 現代最高峰のフラメンコギター奏者であるパコ・デ・ルシアの頃から、フラメンコギターにクラシック的な響きを求める奏者も多くなり、両者の中間的な設計をとる「両用ギター」というものもあります。
ではボサ・ノヴァには何を使うか。これは好みの問題で、どちらでもかまいません。 どちらかといえばプロの奏者はクラシック系の音を好むようです。
ギターをお持ちでない方は購入することになりますが、ある程度きちんとマスターしたい場合は、ギターもそれなりに製作されたものが必要になります。 現在、定価で8万円~10万円前後を目安に考えておけば中級レベルまで不満なく使用できるギターを入手する事ができます。
できれば弾ける方に見てもらうのがよいでしょう。上達に支障のないものを選ぶのが目的なので、ネックの状態やフレットの形状に注意して下さい。 指板と弦の間隔は、後から調整できます。相談する方が身近にいない場合は、信頼できる楽器店で(できれば弾ける人に)相談されることをおすすめします。
手の小さい方や握力が弱い方は、弦長が標準より1-2cm短いギターを使用すると演奏が比較的楽です。 購入したら、傷がつくのを恐れず、どんどん弾いて下さい(ただし、いじめてはいけません)。よく練習すればそれだけ手になじみ、音もこなれてよく鳴るようになります。愛着が更に増すことでしょう。
価格の差は、普及品では材料の差や工作精度に対応しています。 良い材料を使って高い技術で製作すれば、よい音で狂いの少ないギターとなります。高級品の場合、材料選びからはじまり、一本ずつ製作家が入念に仕上げていきます。
はじめのうちは弾くことに気をとられて音どころではないかもしれませんが、次第に耳ができてくると、ギターごとの違いがわかるようになります。 高級品では、音色に味わいがある、力を入れなくても豊かに鳴る、音が自然にふくらむ、低音と高音のバランスがいい、といった差が感じられるようになるでしょう。
良いものを買うに越したことはありませんが、はじめは無理をして高級品を購入する必要はありません。 ある程度上達してから、あれこれと自分に合ったギターを探すこともまた、楽しみのひとつであると思います。
現在ではCDやDVD、YouTube等により、昔に比べてかなり独習しやすい環境になりました。
そうした意味では、なかなかレッスンに通う時間がないとか、近くに教室がないといった方は、注意深く練習すればかなりのレベルまで到達することが可能です。
しかし、上級者が見れば何でもないテクニックであっても、初心者は思わぬ回り道をしてしまうことがあります。 注意しなくてよいことに多大の神経を費やしたり、肝心なところが守られていなかったりといった場面を目にすると、独習だけではやはり難しいという感触があります。
定期的にレッスンを受けると、自分の進歩を実感しやすくなり、目標が定めやすくなるという面もあります。 忙しく頻繁にレッスンを受けることが難しい方は、やや割高にはなりますが、ワンレッスン制のある教室をたずねられてはいかがでしょう。
クラシックギターやフラメンコギターを弾かれる方の多くは右手の爪を少し伸ばしています。 同じ趣味を持たない方にとっては、不潔に見えることもあるでしょうし、ご職業によっては絶対に伸ばせない場合もあるでしょう。爪は必要なのでしょうか。
ギターは、ベートーヴェンの時代には小型ではありましたが、現在のギターに近い6本弦になっていました。 爪を使うか否かについては、このころからすでに論争がありました。
その後、近代になってタルレガをはじめとする今日的な奏法の発展があり、巨匠セゴヴィアによりコンサートスタイルのひとつの完成を見ることになります。 彼は広いホールでギターを豊かに鳴らすために、爪の使い方を完成させたと言えるでしょう。
爪があると、音量が出せる、音がよく透る、音色が多彩になる、音に艶が出るといった利点があります。 もちろん、ただ伸ばせばよいのではなく、自分の爪の質、形によって、入念な手入れが必要で、ある程度自分なりの使い方を身につけるのに数年かかります。
現在、ほとんどのギタリストは爪を使って演奏しています。 フラメンコでは歌や踊りに負けない音量を要することや、激しいかき鳴らし(ラスゲアード)を繰り返すために爪が傷みやすく、樹脂等で補強するのが普通です。 しかし、爪がないと弾けないわけではありません。爪を使用しない音には独特の表情があり、捨てがたいものです。
かつて、プホールという演奏家は爪を使いませんでした。 彼は、大きなホールでは不評でしたが、とても素敵な録音を残しており、今聴き直してもまったく遜色がありません。 プロはともかく、趣味としてギターを弾かれる方は、爪なしでも充分弾けるということを知っておいていただきたいと思います。
なお、弾き方によっては、爪の代わりにピックというセルロイドの小片や、金属の爪(指輪のような形で、手のひら側から爪が出ている)を使う場合もあります。
ギター演奏の特徴に、自分の爪を使うということがあります。 爪の削り方は、とくにこう削らなくてはならないという決まりがあるわけではありません。演奏者のサウンドと密接に結びついていて、どういう音を求めるかによって削り方は変わります。 しかし、そうは言っても水準の音を出すのにいくつか守らなくてはならないことがありますので、独習の方を対象に少しお話しておきましょう。
以下の説明内容は先生によって見解が異なる場合もありますので、あらかじめご承知おきください。
1.まず道具ですが、ごく大ざっはに長さを整えるためにはツメ切りやはさみを使います。爪が硬い場合はひびが入ることもありますので、そのような方は荒いヤスリを使ってください。
2.形を整えるには、主に小型の金属ヤスリを使います。ステンレスの両面がヤスリになっていて、粗い面と細かい面をもつものが300円から1000円くらいで販売されています。安価なものでも充分使えますが、高級品の方が長期間切れ味が変わらないとか、持ちやすいといった違いがあるようです。
3.仕上げは耐水ペーパーという黒っぽい紙やすりを使います。800番前後を使う方が多いのではないかと思います。600番では少し荒めとなり、1000番ではかなり細かくて削り落とすような目的には向きません。
爪の長さは音に大きく影響します。 長いと硬質のしっかりした音になりやすく、短いとやわらかな響きになる傾向があります。 爪の厚さや質によっても異なりますので、自分にちょうどよい長さと弾き方を身につけるまでには数年かかると思います。
はじめは手のひら側から見て少し出ている程度の長さから始めたらよいでしょう。 指に沿って形を整えたら、削った面を耐水ペーパーで磨き、削りカスを除きます。 少しでもキズや凸凹があるときれいな音になりません。
最後に先端の表側と裏側を耐水ペーパーで仕上げて出来上がり。 この仕上げをいい加減にすると、いくら見た目にきれいに仕上がっていてもザラザラした音になってしまいます。(あまりツルツルにすると遠達性が失われるという演奏者もいます。)
さて、音出しです。弦に触れて、爪にかかった瞬間、カチッというツメの音がしたら、削り方が悪いか、弾く角度や触れる深さなどが不適当か、どちらかです。 指の肉の部分から滑らかに爪に移行する角度を見つけてください。 角度と深さは音質に大きな影響があり、先生によって意見がかなり異なると思います。 いろいろ試して、あなた自身の音を見つけてください。
よくギターのネックは薄い方が弾き易いと言われます。これは本当でしょうか。
ギターの弾き易さ(もちろん左手の)を決める要素には、ネックの厚さ、削り方(丸み)、指板の幅、1弦から6弦までの弦幅(ナット溝の間隔)、フレットの状態があります。12フレット以上のハイポジションになると、指板(黒い板の部分)の厚みも弾き易さに影響があります。 これらの要素が組み合わさって弾き易いか、弾き難いかが決まります。
厚さは指板の幅あるいは弦幅とのバランスが重要で、指板幅に比べて厚さがないと弾くときに左指が1弦側で窮屈な形となり、常識に反して弾きにくいことがあります。 一方、厚みがあっても、弦幅が狭いと意外に弾き易く感じます。 いい例がイグナシオ・フレタの作品です。
幅が違うといっても弦幅の場合は1ミリ前後ですから、ほんのわずかの違いで印象が大きく異なるのです。 上駒(ナット)はオリジナルとは別にスペアを作ってもらうこともできますので、広すぎると感じるときは1ミリから2ミリくらい幅の狭いせまいナットに交換してみるのもひとつの方法です。 あまり狭くしすぎても、ネックとのバランスが悪くなってしまいますので注意してください。 器用な方は、適当なヤスリがあればご自分で削り出すことも可能です(ナットとブリッジの材料はアウラにもあります)。 この場合、音質や張りが変わってしまうことがありますので、オリジナルのナットは絶対に加工せずに保管してください。
ネックの丸みのつけ方は、製作者によってかなり違います。 指板は平らに仕上げることが多いのですが、人差し指のセーハが楽なように、わずかに丸みをつけたり(たとえばラミレスやベラスケス)、左手の疲労を緩和する目的で多少ひねった形状に削る製作家もいます(サーリーン)。
フレットは通常、あまり問題にはなりませんが、ちょっと高めのものが見られたり、量産品では調整のために削りすぎて初めから低いものもあります。 調整が不適当なものでは、フレットの肩を削りすぎていて、押さえたときに1弦がネックから滑って落ちてしまうこともあります。 フレットは練習量が多い場合はだんだん減ってきて、弦が当たる場所が凹んできます。 ひどくなると振動が凹んでいないフレットに当たって、力をいれて押さえても音がビリつくことがあります。
さて、人間の手の方を考えてみると、誰一人として同じではありません。 ある人に具合のいいネックが他の人にも弾き易いとは限りません。 また、初心者は技術的にまだ充分でないため、しばしば自分の楽器を弾きにくいと思いがちです。 慣れるとどのギターにもそれなりに手がなじんできます。 もし、1年以上使っていても、他のギターの方が楽に押さえられるとか、他のギターの方が曲の中で正確に押さえられるといったことがあれば、ネックが手に合わない可能性があります。
すから本当に合うか合わないかの判断は、実はかなり難しいのです。 ただ、弾き易いといわれる製作家の作品は、日本人の体格に合う場合が多いということは言えるでしょう。 ギターを買い換えるときに一番大切なのは音質ですが、同様に大切なことが弾き易さです。 手に合うギターには愛着が増し、つい手が届き、上達にもつながるのではないでしょうか
ギターを手にして間もない方は、左手が押さえづらいことに悩まされると思います。 まだ指に柔軟性がありませんから、不必要な力ばかり使って、肝腎な音がちゃんと鳴らないという苛立ちを感じるかもしれません。 とくに低音弦は太くてビリつきやすく、ちゃんと音が出ないのはギターが悪いのではないかと疑ったりします。 正しい練習なくこの段階から抜け出すことはできません。
多くの先生は初めにフレットに近い位置を押さえることをすすめると思います。 フレットとフレットの間隔は3センチから1センチくらいまでありますが、フレットのすぐ近く(胴体に近い方)を押さえる方が小さな力でしっかり押さえることができます。 (先生によってはフレットとフレットの中間を押さえるのが正しいとする場合があります。)
また、フレットの真上では、しっかり押さえられますが、振動する弦に指が触れるため、音がぼやけてしまいます。 そうは言っても、和音を押さえるときに全部の指がフレットの近くを押さえられるわけではありません。 これは体格的にしかたがないので、力が弱い小指を優先してフレットの近くに置き、人差し指のように動きの楽な指をそれに合わせて押さえます。 これは大変なことに感じられるかもしれませんが、各指のバランスがとれてくると、考えなくてもだんだん指が勝手に調節してくれるようになってきます。どのくらいの期間でそうなるかは、その方の練習量によります。
いずれにせよ、無理にギュウギュウと押さえ込もうとしないで、冷静に左手を見てください。鏡を置くと自分の手を客観的に見ることができるでしょう。 人差し指を伸ばして複数の弦を同時に押さえるセーハは、上級者にとっても困難な技術です。 初心者では、2本同時に押さえるだけでも歯をくいしばってしまうかもしれません。 これも基本はフレットの近くを押さえるということです。そして、しばらくはすべての音がちゃんと鳴らなくても、3本のうち1本鳴らなくてもいいと割り切ってはどうでしょうか。 実際、6本すべてセーハする和音でも、鳴らなくてはいけない弦は1弦と6弦だけだったりします。 中級くらいになると、とくに考えなくても、こういう場合に2弦から5弦の分は指の力がぬけているのです。
それから、弾く瞬間に力を入れて押さえ、その前後は脱力しているのです。 それが考えなくても自動的にできるようになるにはおそらく1年以上かかるでしょう。 初めは関係ない筋肉まで総動員して押さえるので、指がへとへとになるでしょう。無理はしないで、でも少しだけ負荷をかけて、繰り返し練習してください。
右手の爪の削り方は一応お話ししましたが、親指については多少異なる注意が必要です。 向きも使い方も他の3本とはかなり違いますから、当然と言えば当然です。 多くの教本に描かれている図や写真では、弦に当たる側をすり落とし、反対側を長めにするということになっています。 おそらくこの形に削る方が多いと思います。
しかし、これとは逆に弦に当たる側を長めに、反対側をすり落とすという削り方をする場合もあります。 そんなことをしたら、爪に弦がひっかかって汚い音になる、と想像されますが、タッチが違うとこれで良い音になるのです。
人差し指(i)、中指(m)、薬指(a)の使い方は、伝説のギターデュオ、プレスティ・ラゴヤの流れを汲む人々を除いては、おおむね一種類の使い方と言えますが、親指については二種類の使い方があります。 ひとつは親指をそらせて、爪の付け根に近いところから弦に触れるタッチ。 もうひとつは爪の先端部から先に弦に触れるタッチです。 この場合は、必ずしも弦に近い側の爪をすり落とす必要はありません。 もちろん、どちらもまず肉の部分から先に触れ、滑らかに移行するように爪の形を整える必要があります。 比率では後者の使い方をする方が多いように思います。
弾きやすく、良い音が得られればどちらでも良いわけですが、親指の使い方は単に指や爪の都合だけにとどまらず、右手全体のバランスに大きく影響がありますので、自分の手や爪の形に合うタッチを慎重に選ぶ必要があります。
どちらかと言うと親指は脇役的に考えられがちですが、一流ギタリストの多くは親指の使い方に長けていることを銘記すべきではないでしょうか。
選び方のページでもお話しましたが、高級なギターは音に深みがあったり、弾きやすかったり、いろいろすぐれた点があります。 ここでは高い技術できちんと製作されていることを前提に、音質や音量の面からギターを選ぶことを考えてみることにしましょう。
ひとくちに良いギターといっても、どういう価値観で判断するかによって評価が変わることがあります。 たとえば、有名なギタリストが使っているギターが良いギターかというと必ずしもアマチュア愛好家に好適なギターとは限りません。 というのは、ステージで使用することを考えた場合、音質だけでなく音量と遠達性が必要となるからです。
また、そのギタリストにとって表情の変化が得やすいかどうかは、爪の強度にも関係があります。 よく知られた例では、ジュリアン・ブリームのように爪の弱いギタリストは、弱いタッチで鋭敏に反応するギターを高く評価します。 逆にそういう繊細な楽器を、ジョン・ウィリアムスのような強靱なタッチで弾くと、良さが生かせないこともあります。
またプロのギタリストの場合、仕事に使うのですから、長期間弾き込まなくても初めからよく鳴ってくれるギターの方が都合が良く、寿命はそれほど期待されません。 同じ楽器を何十年も使い続けることはあまりなく、数年で変える場合が多いようです。(激しく使うとフレットが減りますから、長期間使うには何度も調整や修理が必要となってしまうのです。)
一方、アマチュアの場合、弾き込むことによって音に味わいが深まるのをじっくり待つことも楽みのひとつであるはずです。
また、プロは当然遠達性のよい(遠くまでよく届く)ギターを評価しますが、ホールで弾くことがあまりないアマチュア愛好家が、遠達性にすぐれていても耳元でそれほど良いと思えないギターを選ぶ必要はないと思われます。 音量があるギターは力まなくて済むので、弾くのが楽に感じられる傾向があり、初心者が弾き比べると評価が高くなりがちです。
もちろん音量は大変重要な要素なのですが、音量と音質は反比例に近い関係があります。 音量豊かな楽器は鳴らす快感が得られる反面、大味で表情に乏しい、和音が混濁しやすいといった傾向があります。 逆に弾いていてずっと鳴らし続けたくなるような響きの美しいギターは、音量がない傾向となります。
この相反する性質をうまくバランスをとって製作されたギターは、「かなり音量があるのに繊細さも兼ね備えている」「響きが明晰なのに音量もある」という評価を得ることになります。
音質については評価が更に難しくなります。ふっくらとした丸い音は、なんとも懐かしい思いにさせられ、ろうそくの光のように人をなごませてくれます。 しかし、このような音質は多声部を明確に鳴らすことには向きません。 逆に鋭く細い音は遠達性にすぐれ、多声部の処理が美しくなります。 そして、実際のギターの音はこの両極端の間に多数存在しているのです。
ところで、ヨーロッパの教会のオルガンの音には各国で大きな違いがあります。 北ドイツに鋭く硬い響きでゴシック建築を思わせるものがあると思えば、イタリアののびやかな音、フランスの爽やかな音、スペインの暖かくにぎやかな音、これらの良いものはそれぞれに魅力的であって、同じバッハを鳴らしても曲の別の表情が見えてくることがあります。
オーケストラも国や団体ごとに響きが違い、良いものはそれぞれが個性となってることはご承知のとおりです。 ギターもひとつの基準だけで評価することは難しく、それぞれの良さを意識しながら自分にはどれが合うかを考えることを通じて、よいギターに出会い、その方の「耳」が作られていくのではないかと思います。
一応アルペジオ(分散和音)が弾けるようになってくると、「アルハンブラの想い出」や「暁の鐘」などのトレモロを次の目標にされる方が多いと思います。 美しいトレモロ奏法を耳にしてギターの虜になってしまった人は昔からたくさんいます。
ラジオしかなかった時代には、いったいどうやって1本のギターで伴奏とメロディーを演奏できるのか、実は二人で録音したのではないか、などと信じがたく思われました。
このページをご覧になる方はおそらくどのようにトレモロが弾かれるかはご存知と思いますが、右手の親指が伴奏部分を受け持ち、人差し指、中指、薬指(i、m、a)がメロディを弾きます。 はじめのうちは、i、m、aを均等に鳴らすことがなかなか困難です。爪の状態もうまく整える必要があります。 上手にいかない場合の多くは、iのバランスに問題があります。a、m、iがひとかたまりにならないように、どちらかというとiにアクセントをつけるような気持ちで、大きな音でゆっくり練習するとよいと思います。 1本の弦の上でp、a、m、iの練習をするのも効果があります。
それから「アルハンブラの想い出」のような曲は、左手がかなり難しいですから、いきなり練習する材料には向きません。 あまり面白くはないかもしれませんが「ラリアーネ祭」のような左手が幾分楽な曲をまずマスターしてはいかがでしょうか。 ちゃんと弾けると、これはこれで立派なレパートリーになってくれることでしょう。
楽譜を見ずに弾くことを暗譜といいます。 何回か練習するうちに暗譜できてしまう人もいますし、まず暗譜してしまわないと、最後までとおして弾けないという人もいます。 暗譜が苦手という方は、どちらかといえば初見(初めて見る楽譜を弾く)が早い傾向があるようです。 無理に楽譜を覚えようとせずに、何度も練習するうちに自然に覚えてしまうというのがよいと思います。
練習方法として望ましくないのは、楽譜を見たり手元を見たりしながら、数小節ずつ弾くことです。 もちろん、最初はそうなりますし、難しい場所だけ取り出して練習するときはそれでよいのですが、ある程度たってもとぎれとぎれの練習を繰り返していると、なかなか通して弾けるようになりません。
それは暗譜しにくいということでもあります。 新しい曲に取り組むときは、まず楽譜を読みましょう。ざっとでもよいのです。 どこが難しそうか、押さえにくそうか、ポジションはどの位置をとるか、など確認してから弾くと、ギターを手にしたときにかなり違う感じがするはずです。 そして楽譜を見ながら弾くときは、なるべく手元を見ずに楽譜を見ましょう。 左手は考えながらゆっくり手探りすると、だんだん初見が苦でなくなってきます。 ポジションを移動するときだけ左手を見てください。
そうしてしばらく練習したら、楽譜を見ずに弾いてみます。途中で忘れてかまいません。 止まったところで楽譜を確認します。何回やっても同じところでつっかえるときは、集中的にその部分を練習します。 たいてい、難しい部分を取り出すと、時間にして数秒程度です。 これをゆっくり20回繰り返したとしても、5分もかかりません。50回もやれば手が覚えてくれます。
全曲を50回繰り返すのは大変でも、部分的に取り出せば、5分や10分でできてしまいます。 手の力を抜いて丁寧にゆっくり繰り返し、最後にちょっとだけ早く練習する。 これを繰り返せば必ず手は覚えてくれます。 しかし、手が覚えればおしまいというわけではありません。
手がおぼえているだけだと、発表会など、緊張する場面では突然止まって、立ち往生ということがあります。 人前で弾くときは必ず楽譜にもどって、重要な運指のポイントや、曲の流れを確認しておく必要があります。 「たとえ止まってしまっても、どこからでも弾き直せる」という自信があると、失敗しないものです。
アンドレス・セゴヴィアは、第二次世界大戦前から1970年代にかけて活躍した大ギタリストです。 最近ではクラシックギターを弾く方でも、セゴヴィアの演奏を聞いたことがない方がふえたのではないかと思います。
現在40歳台くらいまでのギターファンにとって、セゴヴィアは本当に神様のような存在でした。 一般的には、「禁じられた遊び」のイエペスがよく知られていましたが、少し本格的にギターに関わった方は、良きにつけ悪しきにつけ、セゴヴィアを抜きにギターを語ることはできなかったのです。 彼の演奏の特徴はスケールの大きさにありました。
1000人以上の大きなホールで、ギターという音の小さな楽器をたずさえながら、彼は音の空間を支配することができました。 聴衆は、魔法にかかったように、セゴヴィアが奏でる異空間に導かれたのです。
実際、彼のテクニックは今もよくわかっていません。 とりわけ音に特徴があり、官能的で、セゴヴィア・トーンと呼ばれていました。 何とかしてあの音が出せないか、とファンは必死に研究したのです。 しかし、彼が育てたジョン・ウィリアムス、オスカー・ギリア、ホセ・トマス、アリリオ・ディアス等のギタリストは、弟子の時期にセゴヴィアの演奏スタイルを追い求めたにもかかわらず、誰もセゴヴィア・トーンを彷彿とさせるようなサウンドをもっていません。 これらのギタリスト達が、演奏スタイルにセゴヴィアの影響を残しながら、それぞれ独自のサウンドをもっていることは興味深いことです。
セゴヴィアはたくさん録音を残し、CDは今でも簡単に入手できます。 しかし、数十年も前の録音で、当時としてもあまりよい録音状態ではありませんでしたから、ギターらしからぬ大きな音像を、録音のせいと思っていたファンも多くいたはずです。 でもそれは録音技術の問題だけではなく、彼の演奏には本質的に巨大な広がりや色彩感があったのです。 実際のコンサートを聴いてさえ、彼が本当にステージで弾いている音なのか信じられなかったと語る人もいます。
セゴヴィアはとくに誰か先生についたわけではありませんでしたが、一代で現代的なコンサートスタイルの演奏法を確立してしまいました。 彼の先輩達の演奏は良い意味でも悪い意味でもまだサロンのものでした。 セゴヴィアはそれを一気に数千人のコンサートホールへ持ち込むことに成功したのです。
巨匠セゴヴィアは、しかし、わがままな人でもありました。 楽譜の音を勝手に変えたり、現代では考えられないような改作をしたりしました。 リズムやテンポは歳を重ねるにつれてゆれが大きくなり、様式感を損ねるようになっていきました。 現代の若い世代のギターファンは、セゴヴィアの演奏に接したとき、「これ何!?」と顔をしかめるかもしれませんし、止めたくなるかもしれません。 でも、落ち着いて何度も聴いてみると、現代のギターがセゴヴィアのスタイルを否定したとき一緒に捨ててしまったものが聴こえてくるのではないかと思います。 セゴヴィアは、他の人がいかなる努力によってもたどり着くことができない、真に「天才」という尊称を受けるに値するギタリストだったのです。
学生の方は比較的条件がよいと思いますが、社会人の方はなかなか練習時間を確保することが難しいのではないかと思います。 時間がとれても、「飲む」方が優先だ!という方もいらっしゃることでしょう。 なるべくなら単調な基礎練習を減らして、好きな曲に取り組みたいというのは人情です。 できれば指のウォームアップの時間を最小限にしたいと思う気持ちはプロもアマチュアも同じです。 プロの方は独自のいろいろな方法を実践されていることと思いますが、ここでは誰にでもできて効果のある簡単なウォームアップの方法をお話ししたいと思います。
ウォームアップなのですから決して無理をしたり、やりすぎてはいけません。 でも、うまくやれば通勤時間を生かしたトレーニングとすることも可能です。
1.基本動作: 手を軽く握り、片方ずつでかまいませんから、グー・パーをゆっくり32回くりかえします。 このとき、パーの方にほんの少しだけ力を入れてください。 これは比較的安全な動作ですから、無理をしない限り、多めにやってもかまいません。痛みを感じる方はやらないでください。
2.応用動作: というと大げさで、やることはグー・パーです。 今度は、グーからはじめ、パー・グー・パーを1単位とし、基本動作より少し早めに動かします。 高齢の方ではかなり無理がかかるかもしれませんので、くれぐれも注意してやってください。 楽にできる方は、1単位のスピードを上げると、トレーニング後のスラーの軽さや正確さが変わるのがわかると思います。
どの動きでも、動かす瞬間以外はできるだけ脱力してください。 1単位ごとに力が抜けていくのを確認してください。力をつけるのではありません。 瞬発力の訓練ですから、力んでしまっては効果がないだけでなく、逆に手を壊してしまう恐れもあります。 ご自分の手に合った、無理の無いスピードと回数をご自身で見つけてください。 この運動は、単純な日常動作ですから安全性が高いはずですが、実践はあくまで自己責任でやっていただかなくてはなりません。何かトラブルが起こっても責任は負いかねますのでご了承願います。
弦はいろいろな種類がいくつものメーカーから発売されていて、どれを選んだらよいか迷ってしまいます。 弦を変えるとどのくらい音が変わるのでしょうか。
低音弦の3本については、古くなったものを新品に交換すると、誰の耳にもわかるくらいはっきり変わります。 太鼓をたたくような、トントン、ボコボコというような鳴りかただったのが、ジーンとかギーンというような、のびのびした張りのある音になります。 半年も交換しないと、「へー、もともとは、こんなにいい音がするのか」と思うかもしれません。 これに比べて高音弦はそれほど変わりません。
じゃあ切れるまで張っておけば?と思うかもしれませんが、弾いているとフレットに当たる部分が変形して、きれいな振動をしなくなり、音程が悪くなっていきます。 また引っ張りによる変形も起きるようです。 振動が不規則になると調弦がしづらくなるほか、フレットにぶつかってビリつくこともあります。 高音弦の4~12フレットは強く弾いてもビリつくことはなく、ビリつきやすいときは、弦に問題がある場合が9割以上です。 以上は弦が使用に耐えない場合の交換ですが、音質を調整するために弦を換える場合もあります。
とくに1番高音の1弦は、音のつや、のび、歯切れのよさなどが変わりやすいのでいろいろ試してみると楽しいものです。 3弦も、2弦と見まちがえるほど細いものから、止めるのに苦労するほど太くて硬いものまであります。 低音弦では、鋭くて金属的な切れのよいものもあれば、少しくすんでいて重量感のあるものもあります。 「弦はどれを選んだらよいか」も参考にしてみてください。
弦はセットだけで売られているものも、バラ売りされているものもあります。 セットになってはいても、必ずしも6本のバランスがとれているわけではありません。 同じ弦でも、張る楽器が変わると響きが180度変わってしまうこともあり、このあたりが弦選びの面白いところです。 変えてから1週間くらいは響きが変わりますので、すぐに評価を決めてしまわずに、少し弾き慣れる必要もあることを忘れないでください。気に入らないときも、すぐに あきらめることはないのです。
スラーがきれいにできるようになると、腕前にも自信が出てきて練習の楽しさも倍増することでしょう。
しかし、スラーは上級者にとっても難しい技術です。 上行スラーは左指で弦をたたいて音を出し、下行では左指で弦をはじいて(引っかいて)音を出します。 その部分だけを取り出すと、面白くもなんともありませんが、曲の中で使われると響きがなめらかになり、いろいろなニュアンスを与えることになります。 使い方次第でスピード感が出たり、ぼかす効果が出たり、アクセントを与えたりします。 上行スラーでは、たたく動きであるため、1~3の指では初心者も比較的うまくできるのですが、4の小指では力がないため音がはっきりせず、たたく位置も不正確になりやすいため、つらい練習かもしれません。
下行ははじめは引っかく指と一緒に支える指の方が動いてしまい、うまく引っかけないと思います。 上達するにはスラー自体の練習をやることも有効ですが、左手全体のバランスがとても大切です。 本当に上達したい方にはセゴヴィア等の全音階練習(24調)を合わせて練習されることをおすすめします。
すべてでなくても、ハ長調、イ短調、ト長調、ホ短調くらいでも効果があります。 練習が進むと、実はスラーは力で鳴らすのではなく、指のバネで鳴らすのだということがわかってくると思います。 力を必要とする場合もありますが、スラー全体の1~2割くらいに過ぎません。 そして、一応できるようになったら、曲の中にスラーを溶け込ませなくてはなりません。
スラーにさしかかると、慣れないうちは力んでしまい、その部分だけ早くなったり、スラーとして鳴ってはいても妙に目立ってしまったりしがちです。 曲の中でスラーが自然に鳴るようになるには時間も必要ですし、自分の音をよく聴かなくてはなりません。 早いスラーでなくても、曲の中でリズムをこわさずに多様なスラーが自然にできるようになれば、あなたは上級者の仲間入りをしたことになります。
「ギターが好きで長年練習しているのに、あまりうまくならない。。。」と思っておられる方は、かなり多いのではないかと思います。 アマチュアの楽しみ方としては、ただ音を出しているだけでも結構楽しかったり、楽譜を見ながら音をひろって数時間を過ごすのも楽しい休日かもしれません。 でも、もしあなたが、誰かに弾いてあげる曲がほしいとか、レパートリーと言える曲を持ちたいと思われるのでしたら、練習方法を見直してみるとよいかもしれません。
新しい曲を練習する時、一日に何回くらい繰り返すでしょうか。 はじめの数日は、譜面を最後まで追えないかもしれません。 半ページでも1段でもかまいませんから、1日に5回以上、できれば10回繰り返しましょう。 同じ部分をゆっくり何度も繰り返すのが上達の早道です。
ヴァイオリン指導で有名な故鈴木慎一先生の著書に感動的な場面があります。 正確ではありませんが、だいたい次のような内容です。
音楽学校で、ある学生が「いくら練習しても早く弾けません」と相談に来たときのことです。 鈴木先生は、「ちょっと指を動かしてごらん。あなたは手に怪我でもしたのですか? ちゃんと動くじゃありませんか。あなたの指は早く動く。でも練習方法が間違っているのです。これから5日間、心を込めてゆっくり、ていねいに練習してごらん。そのあとで2日間ちょっと早く練習してごらん。」 その学生は1週間後、何の問題もなく弾けるようになったそうです。
このエピソードは、鈴木メソッドの基本、つまり丁寧に同じことを何度も繰り返すということを示しています。 ギターでもおそらく同じことが言えるでしょう。 指に動きを記憶させるには時間がかかります。
1回さらってあとは明日というのでは、指は覚えてくれません。 また、ゆっくり繰り返すと言っても、ただ漫然と繰り返す練習では、効果が半減してしまいます。 どの指が問題なのか、どこでよけいな力が入ってしまうのか、どこを押さえそこなうのか、などをよく観察しながら練習する必要があります。 曲全体を何度も弾くのは時間がかかりますから、区切りの良いように取り出し、部分的に練習することが大切です。
早いスケールが曲の中でキラリと光るのは爽快で、あんな風に弾けたらいいなと思わせます。 実際には早くて長いスケールというのはあまりなくて、瞬間的に現れる短いものがほとんどです。 また速度も、実はそれほど速くないのが普通です。 それなのにどうして早いスケールをうまく弾けないのでしょうか。
原因の主な部分は右手にあると考えられています。i,mを交互に動かすだけであれば結構早く動くのに、弦を弾こうとするとうまくいかない。 それは、i,mの動きが単純な往復運動ではないからです。 行きと帰りが同じであれば、弦を2回弾いてしまうわけですから、もどるときには弾いた時とは別の動きをしなくてはなりません。 しかも連続的に。また、2本の弦を移動しなくてはならない場合もよくあります。 このときに指の角度がくずれて均一な動きがしづらいのです。 これを完全に避ける手段として、p,iでスケールを弾くという方法があります。
現在、p,iを使うスケールは主要な選択肢ではありませんが、どうしてもi,mでうまくいかないときは考えてみてもいいのではないかと思います。 この方法の利点は、右手の形を変えずにスケールを弾けること、音色の変化をコントロールしやすいこと、スピードをコントロールしやすいことです。 つまり、スケールにさしかかっても緊張せずに飛び込めるし、スケールが重い音になるのを避けられます。
一方、欠点としては、基本的にアポヤンドできませんので、よけいな音が残りやすい点が挙げられます。 また、i,mのように、どんなスケールにも使えるというわけにはいかないかもしれません。 しかし、ある程度練習すれば、ほとんどの早いスケールで実用に足ることを確認しています。 そして、実際にp,iで弾くかは別としても、左手のチェックに使えるという利点があります。 p,iで早く弾けるようになってくると、問題は実は右手だけではなく、左手の動きが足を引っ張っているのがわかってきます。 とくにポジションの移動の際にに気づくと思います。
どうしてもi,mでスケールをうまく弾けないという方は試みてはいかがでしょう。 でも、先生についておられる方は、「邪道である!」と叱られる恐れがありますので、念のため。
演奏力は腕力や握力ではない、と言いたいところですが、実際には指の力はとても大切で、難しい曲を弾くにはそれなりのパワーが必要です。 また、レベルに合った練習曲や適切な課題によって、楽しんでいるうちにいつの間にかパワーがついているのが理想ですが、これも現実には口で言うほど簡単でないことが多いと思います。
そこで、指のパワーや柔軟性を維持・増進するのに役立つ練習として、第1ポジションでの「オクターブの繰り返し」をご紹介したいと思います。 初心者がいきなりやるには負荷が大きすぎる場合もありますから、やる前には必ず音階練習や指のストレッチを行い、急に無理がかからないようにしてください。
やり方は、通常のオクターブ練習と同じように、6弦の開放弦と4弦の2フレットのミの音のオクターブをスタートにして半音ずつ進み、1弦のソ#(4フレット)までの間を往復します。 右手はp,iでかまいません。和音にしないで音をひとつずつ鳴らしても効果は同じです。 ポジションは移動せず、4フレットまでの間で指を次々に変えていきます。4を使うときがなかなか難しいと思います。 少し慣れてきたら、一回に2往復、3往復と連続して練習します。更にはできるだけ早く往復します。
練習上の注意: 力はできるだけ抜いてください。押さえ込もうとせずに、弦の上に指を乗せていく気持ちで、軽く押さえてください。 それでも往復はかなりきついと思います。 慣れてきたら1日に3往復を3セットくらいどうでしょう。効果は1週間もすると実感できます。 連続して行うと手が痛くなりますから、絶対に無理はしないで休みを入れてください。
多くの教室は、年に1回または2回ほど発表会を行っています。 人前で弾くことに慣れていない方はプレッシャーを感じるかもしれませんが、これが楽しみで続けている人もいます。
発表会のために練習することに疑問を感じたり、自分で楽しめればいいという考え方ももちろんあるのですが、発表会があると必然的に曲を仕上げなくてはならず、はげみになりますし、実際に上達します。 当然、レパートリーが増えることにもなります。また、発表会のあとの打ち上げを楽しみにしている方も多いことでしょう。多少のアルコールも手伝ってお互いの努力をたたえ合い、音楽談義、ギターや弦のウンチク、演奏家の批評なども飛び出して、「また練習しよう」という意欲がわいてきます。
ギターは完全な独奏ができる反面、ひとりで練習する孤独な面もありますので、こうした仲間との語らいは貴重なひとときとなります。 とくに初心者は、先輩の演奏を聴いたり、自分の演奏を批評してもらったり、上級者から練習の苦労話をしてもらうと、とてもはげみになると思います。また、同じレベルの人がいれば仲間意識も生まれます。
先生についていない方は発表会に参加できないかというと、そういうわけでもありません。どなたでも参加できるような発表会を開催している教室もあります。 なお、発表会を行うにはホールの使用料やプログラムの作成費用などがかかりますので、普通はある程度の負担が必要になります。
15でも触れましたが、スラーは難しい技術です。これがきれいにできれば一人前と言えるかもしれません。 ここでは上行スラーが弦の適切な位置にうまく当たらず、情けない音しか出ないという場合を考えて見ましょう。
上級者はパチンと明瞭に鳴らせるのに、初心者の弱い小指では、ただでさえ力が弱いのに、正しい位置になかなか当たらないという時期があります。 もちろん、上手な方でも練習をしばらくおこたるとうまく鳴らなくなってしまいます。 これを改善する方法のひとつに、下行スラーを練習することがあります。 下行スラーを弾くときは、当然のことながら、左指はまず弦の正しい位置におかれなくてはなりません。 ここで力を込め、スラーを「引っかける」わけですが、この練習を繰り返すと、指を握りこむ方向に鍛えられるとともに、指板上の正しい位置で最も力がかかるという条件が得られます。
さしあたって、1弦の下行スラーを丁寧に、ポジションを移動しながらやってみましょう。 はじめは力を抜きながら4-3-2-1、次に4-2-1、次に4-3-1と進みます。指が柔らかくなってきたら2弦でも練習します。 だんだんスラーを弾くことに快感が得られるようになったら、今度は上行を練習してみてください。 いつもよりうまく鳴りませんか? 「ギターを持たない練習のヒント」にある練習も参考にしてみてください。きっとうまく鳴るはずです。
どのような楽器であれ、練習の基本は音階練習(スケール)とされています。 でも、音階練習は退屈な練習の象徴でもあります。できることならやりたくない、大半の方はそう思われることでしょう。
音階練習は本当に必要なのでしょうか。ほかの練習ではカバーできないのでしょうか。 答えはおそらく、NO(絶対に必要とは限らない)です。
しかし、音階練習ほど無理なく指に柔軟性や正確な動きが得られ、音が充実してくる練習はほかにないでしょう。 音階練習はそもそも、目的をもたなければあまり効果はありません。 ポジション移動を滑らかにすることを目的とするのか、動きの正確さを目的とするのか、レガートに弾くことを目的とするのか、均一な音で弾けることを目的とするのか、練習者によって、さまざまな目的が考えられます。 練習速度が早いか、遅いか、大きな音でやるか、小さく弾くか、アポヤンドか、アルアイレか、それぞれに得られるものが違います。 欠陥を矯正するための練習として、音階練習は単純な課題であるために問題点に注意を払いやすく、曲を何度も弾くより効果的だったり、無理をせずに済むのです。
もちろん、適切なやり方を選ぶことはとても大切で、ただ漫然と(いやいやながら?)やる音階練習から得られるものは少ないでしょう。 晩年まで強靭なテクニックを誇る名チェリストだったポール・トルトゥリエは、「私はガンム(音階練習)を始めるときが一番幸せだ」と語ったと言われていますし、セゴヴィアは、「2時間の音階練習は6時間の無益な練習に匹敵する」と語ったとか。
爪の形と同様に、右手の角度は演奏に重要なポイントとなります。 これにも諸説あり、現状では標準と言える右手の形や角度は、まだ確立していないと言ってよいでしょう。 大雑把に言えば、「アルハンブラの想い出」の作者であるタルレガの時代からセゴヴィアの時代には、彼らのように弦に垂直となる構えが正しいとされましたが、イエペスや、セゴヴィアの次世代であるジョン・ウィリアムス、ジュリアン・ブリームあたりからゆるやかな角度になってきています。 これには演奏されるレパートリーが多様化していったという事情も反映されています。
しかし、一方では角度をゆるくすることによって、個性的な表現や独自の音質という面からは、画一化が進んでいるとする見方もあります。 弦に垂直になる構えは、弦を振動させることから考えると合理的のように思えますが、右手をひねるため、やや不自由な動きとなります。
でも、この構えでは指ごとに性格の異なる音質が得やすく、多彩な表現が可能となる利点があります。 これに対して、ゆるやかな角度に構えた場合は、指に無理がかかりにくく、ピアノのような均一な音質が得やすくなります。 しかし、とちらが動きが楽か、そして自分の表現をしやすいかは、その人の手の骨格にもよりますので、最終的には自分で判断していくことになります。
一般的な傾向として言うなら、弦に対して斜めに弾くとやわらかい音になりますが、反面、ぼやけた、輪郭のない音になりやすく、垂直に近いほどはっきりした硬めの音となります。 どちらが力強いかというと、それは弾き方次第で、垂直であっても爪の先がかかるように弾けば繊細で透明な細い音が得られますし、斜めであっても深い位置からしっかり「ためて」弾けば堂々とした太い強靭な音が得られます。
実際にどのような音になるかは、弾く方の爪の硬さ、長さ、厚さ、幅、皮膚の状態のほか、そのギターの特性や張っている弦の性質にも関わってきます。 思った音にならないときは、右手の角度を変えてみる、爪の長さや削る角度を変えてみる、弦を別の種類に変えてみるなどの工夫をしてみてください。 爪の削り方が悪いと直接的に右手の形に影響しますので、ある程度良い音質が得られるようになったら、音をよく聴きながら、弾きやすい角度で弾けるように削り方も調整する必要があります。 鏡を見て不自然な動きになっていないかチェックするのも有効でしょう。
人前ではあがってしまい、手がふるえてうまく弾けないとか、発表会に参加したくないという方がいます。 外見はともかく、何も不安なくステージで弾けるという人はほとんどいません。 プロの演奏家でも人前では大きなプレッシャーがかかります。
20世紀の代表的なヴァイオリニストであるオイストラフが心臓発作で倒れたのもコンサートの後ですから、超一流の演奏家でさえステージで緊張を強いられるようです。 あがりさえしなければ、コンクールでも実力を出し切ることができるのに。
実は、この問題は、ヴァイオリンのような繊細な指を必要とする楽器については、かなり研究されています。 いずれ別のコーナーでまとめたいと思いますが、いくつかポイントがあります。 十分に練習を重ね、きちんと弾けるという自信をつけることは、もちろん大切です。
でも、それだけに頼るのでは無理があります。 ひとつには姿勢の問題があります。 普段からギターを押さえ込んで体の自由がきかない状態で弾いていませんか?
本番ではよけいに力が入り、体中が硬くなって、音楽の流れが止まってしまいます。 そうすると指の動きも滑らかさを失い、音をはずしやすかったり、思うようにポジションの移動ができません。 ちょっとギターを持たずに弾くまねをしてみてください。 力はいらないし音は出ないのですから、自由に曲のイメージをふくらませることができます。 でも、意外に「弾きにくい」と感じませんか? もし感じるようであれば、まだ楽譜や指の動きがよく刻みこまれていないことになります。試してみてください。 それから、聴いてくれる人に、何かメッセージを送るつもりで弾くこと。これも大切です。
「とにかく間違えないように」「なんとか最後まで弾こう」という気持ちにとらえられてしまうと流れに乗れず、リズムがなくなってしまいます。 誰かあなたが好きな人に弾いてあげる気持ちで練習してみてください。 気持ちが自分の中に閉じこもってしまわないように心がけていると、きっと良い結果が得られるでしょう。
映画館やコンサート会場では、途中で携帯電話が鳴ったり、傘が倒れて大きな音がしないように、多少のマナーが必要です。 これと同じように、コンクールや発表会のステージに上がるときに、知っておくと良いマナー(物腰、作法)があります。
ステージ上でどのように振舞うかは、演奏の一部であると言っても過言ではありません。 音楽は演奏にのみ意味があると思われがちですが、実際には開場から始って、終演までが聴衆の印象に影響します。 どんなにいい演奏を聴いても、ホールを出たとたんにゴミが散乱していたり、耳を覆いたくなるような騒音があれば、気分がこわれてしまうでしょう。
ところが、演奏者自身がステージの雰囲気をこわしてしまっている場合が時おり見られます。 せっかく練習を積んでステージに上るのですから、聴きに来てくださる方に少しでも気持ちよく聴いてもらえるようにしたいものです。そのためのステージマナーをいくつか挙げてみましょう。
・本番でステージ中央まで進むのは、相当慣れた人でないと勇気がいります。リハーサルのときに袖から往復してみて、歩く姿をイメージしましょう。早いとせかせかした落ち着かない雰囲気となってしまいますから、いくぶん遅めがよいでしょう。本番では袖から椅子までの距離がすごく遠く感じられるかもしれませんが、聴衆から見ると、歩くのが遅いと感じられる場合はほとんどありません。 あわてず、一歩ずつしっかり進みましょう。
・ステージ中央で正面を向きますが、礼をする前に一瞬でいいですから、胸を張り、あごを上げてください。 聴衆と目が合うのが怖いときは、ホールの奥の天井あたりを見てください。顔が上向きになればよいのです。 このわずかな動きで、聴衆は演奏が始ることを強く意識し、演奏者には自信が生まれます。 ずっとうつむいたままでは、響きまで暗くなり、音が閉じこもってしまいます。
・調弦は小さな音でやりましょう。本来、調弦は楽屋で済んでいるはずで、ステージ上では微調整を「させていただく」という気持ちが必要です。なお、調弦には演奏前に気持ちを整える意味もありますが、長くなると聴衆は苛立ちを感じ始めますから、10秒から20秒程度に止めましょう。
・弾き始める時は極度に緊張し、つい癖になっている動きをしてしまいがちです。手首を振る、腕の屈伸をする、メガネをなおす、鼻をこする、首を回す、などです。これらは、演奏者の人柄の現れでもあり、必ずしも気にする必要はありません。しかし程度問題で、あまりこうした動きがせわしかったり大きいと、聴衆には奇異に映ります。これから重厚にバッハを演奏しようとする前に、腕をぐるぐる回したとしたら、きっと雰囲気にそぐわないでしょう。こうした「癖」に思い当たる場合は、普段の練習の時から気をつければ容易に避けることができます。逆に、他人が見ていない練習のときについやってしまう動きは、本番で思わず出てしまいますから、日常の注意が必要です。
・演奏が終わったら、ゆっくり立ち上がります。「終わった」と思ってあわてると、足台を倒したりして、せっかくの雰囲気をこわします。 はじめと同様、胸を張り、あごを上げてから、ゆっくりと礼をします。礼は深さよりも、気持ちを込めることが大切です。
うるさいことを書きたてましたが、あまり見た目にばかり神経質になるのでは本末転倒です。 あくまで演奏が主であることは言うまでもありません。 ステージマナーは「聴きに来てくださった方に、感謝の気持ちを表すこと」であると考えてはどうでしょう。 ご自分にとって「不自然でない程度の注意をはらうこと」と受け止めても良いかもしれません。
初心者にとって、弦を取り替えたあとの調弦は、かなりやっかいではないかと思います。 ある程度弦が安定してからも毎日少しずつ下がりますので、練習のたびに正しい音程に調弦しなくてはなりません。 調弦には、基準に音叉を使うと正確な音程を得ることができます。
しかし、音叉で調弦するのは、ある程度慣れた方でないと困難かもしれません。 その点、電子チューナを利用すると、メータの動きやランプの点灯によって容易に正しい音程に調整することができます。また電子チューナーは、他の人が近くで練習しているような、音程の差を聴き取りづらい場所で調弦するときにも威力を発揮します。
しかし、正確に調弦することは、実は上級者にとっても容易なことではありません。 その原因のひとつは、弦の精度が必ずしも高くないことです。 開放弦で正確に合わせたとしても、しばしば他のポジションで音程が合いません。 ひどいときは交換したばかりの弦が使いものにならないことすらあります。 これはメーカーの問題でもありますが、ある程度使用した弦では、フレットに当たる部分がつぶれることによる宿命的な変形も音程に影響します。
これらのことを仮に「受け入れざるをえない」とすると、どうしたら実用的に良い音程が得られるでしょうか。
弦交換は最終手段としておいて、弾く曲の主要3和音の響きに合わせるというのが有効な方法のひとつと考えられています。 これは消極策ではなく、正しい音程の弦であっても同様に考えることができます。 主要3和音がきれいに鳴れば、曲はおのずと美しく響き、明るい曲は明るく、静かな曲は透きとおって響く、というわけです。
そんな難しいことの前に、2つの音が同じ音程かどうかよくわからない、という方も多いと思います。 音質が違う音を並べて同じ音程か比較するのですから、これも簡単とは言えません。 同じ音程にしたいときは、一方の音程を明らかに低い状態にしてから、再び上げていくと合わせやすくなります。
このとき、あまりゆっくり上げるとわかりにくいので、ある程度大きく変化させます。 通り越してしまったようなら、また下げ、同じように上げていきます。音程がすぐ近くまで接近すると、「うなり」を生じます。「ウワンウワンウワン」というような感じです。近づくほどゆっくりとなり、「ワーンワーンワーン」というような感じになります。そして、うなりが消えたときが一致した点です。通り越すとまたうなりはじめます。
これは、フレットを押さえた状態では比較しにくいので、開放弦のハーモニクスを使って合わせます。 たとえば、6弦の5フレットのハーモニクスと5弦の7フレットのハーモニクスを比較するのです。同時でなく、わずかにずらして鳴らすと、うなりがわかりやすいと思います。
なお、開放弦で正確に合わせても、異なるポジションで正確であるという保証はないことを知っておく必要があります。 ハーモニクスで4~6弦を完璧に合わせても、6弦の10フレットのレと4弦の開放弦レがぴったり一致することはありません。
最終的には、やはり曲がきれいに鳴るように、不正確な音程の間をとって微調整するということになります。 これは面倒なことのように感じられるかもしれませんが、いつも響きを意識することになり、繊細な耳を育てることにつながります。