
エリック・サーリン 2005年製 が入荷しました。
〔楽器情報〕
エリック・サーリン 2005年製 No.268 Usedの入荷です。この米国屈指のクラシックギターブランドの、そのキャリアのほぼ中間地点で作られたもので、彼の製作美学と音響哲学、そして造作精度とが極めて高次での融合と完成とに達しており、製作から20年を経た(北米だけでもその後少なからず新たな才能による流れの変化があったあとでさえ)現在も、そのあまりにも妥協のない清新な音響によって際立つ魅力を放つ一本となっています。
撥弦における硬質な弾性感(絶妙なしなやかさ)とともに精製されきったような艶やかな音像が立ち現れます。すべての音が一つの位相の中に完璧なバランスで収まっており、濁りがなく、密度が一定していて、しかも実に表情豊かに響く。これはあえて強引に言えばヘルマン・ハウザーのアメリカ的解釈ともいえるもので、ハウザーの場合はスペイン的叙情をピアニスティックな音響設計の中に収束させる試みですが、サーリンはハウザーのその汎クラシカルな響きを、あくまでもギターという楽器の特性のほうに引き寄せ、しかしながらこの楽器が必然的にまとってしまった民族性や歴史性なども排除した純粋に機能的な楽器として着地させています。
上述した各音の比類のないクリアネスが特筆されますが、和音における構成音一つ一つの明確なアイデンティティ、ポリフォニックな音楽での各声部の線の形成などにその機能性が発揮され、誠にすがすがしい音響が醸成されていきます。細かな表現の点でも、音色の繊細な変化、音量のダイナミズム(ppp から fffまで形が崩れない)、楽曲の要求に十全に応え得る身振りの鋭敏さも申し分ありません。そして彼の楽器がいわばモダンギターと一線を画すのは、こうしたバランスフルな音響がオートマティックに成立するのではなく、むしろ奏者のタッチに対しあまりの高いリニアニティを発揮していることにあります。発音はまるでタッチの指先に吸い付くかのようにヴィヴィッドで、その擦過の瞬間をあまりの解像度の高さで音像に具現化するので、奏者はタッチのしかるべき熟練が求められます。この妥協のなさはよもすれば無機質な、機械的な音響に陥ってしまいそうなところ、これこそがサーリンの優れたところとも言えますが、氏の類まれな感性によって充実した表現楽器となっているところが素晴らしい。
割れや改造などの大きな修理履歴はありません。表面板は指板両脇からサウンドホール周り、駒板下部分など弾きキズや弦交換時のキズがあり、ボトム付近には打痕が数か所ありますがそれぞれ軽微なもので外観を損ねるほどではありません。横裏板は衣類等によるわずかな摩擦あとのみ、ネック裏もほとんどキズはなく全体に経年を考慮するときれいな状態と言えます。ネックはこのブランドの機能的特徴として有名なひねられた形状(高音側と低音側とでボディへの差し込み角度を変える)をしており、これは演奏時に左手の手首の状態を最も無理のない姿勢に保つために工夫されたもので、設定には非常に高い技術を要するもの。ネックの形状はラウンド型の薄めのDシェイプで握り自体もコンパクトなものになっています。ネック、フレット、糸巻き等演奏性に関わる部分も良好です。弦高値は2.5/3.6mm(1弦/6弦 12フレット)、サドル余剰は0.5~1.0mmとなっています。
詳細は上記画像をクリックしてご覧下さい。