A:はじめに大御所、アルカンヘル・フェルナンデスからいきましょう。
B:伝統的な音づくりに、現代的なコンサートスタイルを上手に結びつけた点に特徴があると思います。彼の頭の中にはステージで弾かれることが意識されています。いろいろな製作家がコンサートスタイルを完成させていますが、スペインの伝統を受け継いだものとしてはアルカンヘルが最高峰でしょう。他の製作家は、ある意味で、伝統を断ち切ったところに新しいスタイルを確立している場合が多いと思います。
C:高音部にほのかな色気があります。切れがいいのに香りがあって、繊細な音が好きな人にも好まれます。
B:バランスが良く、濁りが無い音なので、例えば多声音楽を弾いても細部が良く分離しますね。非常に高いレベルでのオールマイティーな楽器ではないでしょうか。
D:いろいろな意味でよくバランスがとれていて、何を弾いても曲が生きる、懐の大きいギターと言えるでしょう。ちょっといい点ばかり言いすぎかな。でも、けなすべき点が見当たらない(笑)。
B:弾きごたえがあります。張りはやや強い方でしょうか。
C:弱いとは言えませんね。一見弾きやすそうに感じますが、銘器特有のタッチに敏感な事を含めて、気楽に爪弾くといったイメージではないですね。
A:アルカンヘルを使っているマリア・エステルを聴くと、力強いタッチなのに荒くならず、よく歌っていますね。ただよく鳴っているだけでなくて芯があり、しかも上品な甘さがある。最近見かける、よく鳴るけど無機的な音のギターとは大きな違いがありますね。
C:先日来たクエンカもアルカンヘルに持ち替えたのですが、音楽まで変わってしまった感じがしました。素晴らしかったですよ。
A:アルカンヘルは材料にすごくうるさいですよね。
C:たぶん材料の良さでは世界一でしょう。そして、作品に当たり外れがない点はすごいと思います。
D:アルカンヘルは典型的なスペインの楽器で、先入観としてフラメンコ向きと思われている面があるようですが。
C:フラメンコのイメージは、本人が若い頃フラメンコを弾いていたため、その世界の友人が多いことと、彼らがアルカンヘルのフラメンコギターを高く評価しているところから来るのでしょう。暗いどろっとしたイメージをもたれる場合もあるのですが、まったく逆で、歯切れがいい。彼の性格ですかね。
B:アルカンヘルの音色の持つ香気というか独自の甘さは、ギターという楽器に不可欠なものではないでしょうか。私は、スペイン的と言うより、純粋にギター的であると言うべきだと思っています。
D:アルカンヘルはマヌエル・ラミレスの唯一の直系ということになりますか?
C:それはちょっと大げさですが、まんざら誤りとは言えません。というのは、血筋として何らかの繋がりや、間接的に関係がある製作家はいますが、彼の様に本当の師弟関係で技法を伝承された人は他に誰もいないからです。マヌエルの工房には、サントス・エルナンデス、ドミンゴ・エステソ、モデスト・ボレゲーロの3人の弟子がいましたが、その中で最も才能があったのがサントスです。そのサントスの後継者がマルセロ・バルベロI世、そしてその工房で修行したのが、アルカンヘルと言う訳です。
A:サントスとアルカンヘルの音質はかなり違うように思いますが?
C:もちろん製作家の個性が反映されない楽器はありませんし、何十年も経た楽器と現役の製作家の作品を同列にならべて、似ているか否か判断するのはちょっと無理な面もあります。
D:サントスの方が、低音が重厚のような気がしますね。
C:時代によって製作技法や使用材の変化が多少楽器に影響を与えて部分もあります。例えばサントスは楽器の重量をおさえてウルフトーンを低めに設定しています。そのため、低音は弾くと腹に響くような音色となりますが、アルカンヘルは概して低音にも遠達性と切れの良さを求めるため、ウルフトーンを高めに設定をしています。これは、言葉で言うとこれだけになってしまいますが、とても重要なことなのです。ある意味で現代の楽器との分岐点と言えるかもしれません。
B:どちらが重厚でバランスが良いかと言う問題になると、人によって感じ方と好みに大きく左右されるので、一概にどちらが良いとは言えないのでは?
C:そう思います。特に最近の低音に対する好みはかなり分かれるところで、現代の製作家は意識的にウルフトーンをどこに設定するか研究して製作しています。