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中野 潤 ホセ・ルイス・ロマニリョス氏を偲んで

マエストロの作品と出会ったのは、まだ私は修行中の20代前半の頃で当時はマエストロの作品もジュリアンブリームのファン以外はそれほど知られていない時代でした。

そのときマエストロの作品が何かが違うと感じたのは作品に『手の痕跡』を見いだした事です。
楽器の質感が他の製作家のものと明らかに違う。『楽器への愛と情熱』を感じさせるのです。
誰にでもマエストロの思いが伝わる作品。

1987年にブリームと共に出版した「アントニオ・デ・トーレス」でモダンギターの始祖トーレスの偉業をまとめ再び光を与え、2002年に上梓した「ヴィウエラ デ ラ マノ」(手で作られたヴィウエラ)では総計1500名という有名無名を問わず16世紀から現在までのスペインの製作家についてのバイオグラフィーをまとめ、忘れ去れていった製作者までも一冊の本の中に蘇らせました。

2014年には「スペインギター製作」を出版しマエストロの製作方法を全て一冊の本にまとめ残してくださいました。
楽器の製作の傍ら、これらの本を出版するだけでもどれだけの労力が必要だったのか想像もできません。

マエストロは楽器製作、著作活動の傍らコルドバ、シグエンサ等で製作のマスターコースを主催して世界の製作家にスペインギターとは何かを教え、広めました。
人生という限られた時間の中、これほどまでにスペインギターを探求し愛し伝道した人物はいないでしょう。

私ごとに戻りますが、独立し製作家としての暗中の道を歩き始めた時に導いてくれたのは、マエストロの引いてくれていた楽器への世界観でした。
ロセッタ(装飾)等、全てに愛情を持ち手仕事で自らの工房で作り上げる。そして伝統を土台にした製作をする。
今とは違い情報が不足していた当時、とりあえずマエストロのレプリカを製作しそこから自分なりに得た手法でトーレスの作品のレプリカを作り出してみました。
苦労はしましたが、マエストロという先達がいたのでその頂も見えていました。
数年後、シグエンサの製作講習会に通訳兼受講者として参加させていただき、初めてお会いした時の憧れの人物にあった快い緊張感はいまだに忘れられません
早朝から夜までマエストロにはご体調も崩されながらも熱心に指導していただき、最終日はマエストロの流した涙で締めくくられました。

(2001年シグエンサ講習会にて)

翌年のマエストロの誕生日サプライズパーティーにも参加させていただき、持って行ったトーレスFE08モデルにエキジビションで好評をいただき本当に嬉しいひと時を過ごしました。
参加者も非常に豪華で、演奏家ではロメロ、アンティゴーニ、トレパット、リースケ等、錚々たるメンバーで日本からは掛布さんが参加されました。
各国からもいろんな製作家も集まりました。アベル・ガルシア、ラファエル・モレーノ、ショセッペ・メルロ、ゲルハルト・オルディゲス、フェリックス・マンサネーロ、故人となってしまったベルンド・マルティン、アンドレ・ブーレ皆マエストロを慕う思いがとても強く、盛大なパーティーが夜中まで続きました。

(2002年 バースディサプライズパーティーにて ペペロメロと)

2005年にお会いしたのが、残念ながら最後になりました。
トーレスレプリカの注文を受け、スペインまで持っていった折、ステファノ・グロンドーナ、ジョセッペ・メルロ、リョベートのお弟子さんだったメルセデスお婆さんとバルセロナからシグエンサまでドライブし、御自宅でマエストロと奥様のマリアンさんを囲んで語り合いました。
技法、ギター界の現状、未来・・・実はマエストロはとても厳しい方で、マエストロのレプリカを製作した日本人の青年が訪ねてきたが、それに何の意味があるんだとおっしゃってました。
私も数台製作したことがあるとは、とても言い出せる雰囲気ではありませんでした。
マエストロが代表作のコルドバ・メスキータを製作したように、デザイン意匠でさえこれが自分の作品であるという楽器を製作しなければマエストロのスピリットは継げません。
その晩、神聖なマエストロの工房に宿泊させていただいたのは私にとってはどんな豪奢なホテルにも勝らない思い出になりました。

「この工房でマエストロは、その手で歴史を残している」

工房の前で別れの挨拶で手をあげてくださったお姿を、今でも思い出します。

(マエストロから頂いたシープレスの切り株でできた智慧の象徴フクロウ)

思えばマエストロの事を考えすぎて、まだお会いした事もなかった頃から夢の中で製作のアドバイスをいただいていました。
それがやがて面識を得て深く話す事もできた。
全てが私の人生には奇跡のような出来事でした。
マエストロが旅立てれても、私の傍らにいつもいてくださるような気もします。
ありがとうございました。

Que descanse en paz El maestro de guitarrra Jose , nos veremos un dia alla .

合掌


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